自分にできる精一杯を。藤田徹信さんが歩んだお佛華の道│藤田徹信さんインタビュー<後編>
(写真提供:枝廣慶樹さん)
前回に引き続き藤田徹信(ふじた・てっしん)さんにお話を伺っていきます。
前編ではお佛華の生け方やコツを伺いました。
花それぞれが活かし合う?お佛華の生け方とコツ│藤田徹信さんインタビュー<前編>
お佛華を始めた「背景」
――藤田さんがお佛華を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
藤田徹信さん(以下:藤田):私が20代の頃、当時法務をしていた祖父が高齢者施設に入り、また同じ時期にお佛華を生けたりお給仕をしたりしてくれていた母が長期入院したんです。父も布教のご縁でほとんどお寺には居ませんでした。いろんなご縁が重なって法務とお給仕の両方をしなければいけない状況になったんです。
当時、私は京都にいて週末だけ広島に帰って来るという生活をしていたのですが、朝本堂へ参ってふと目を向けるとお佛華がないことに気づいたんです。いつも生けてくれていた母がいないので当然なのですが、そのときになってやっと実感して、焦りました。
その日は本堂でご法事が勤まる予定があったんです。このままではいけないと、裏山に咲いている野花を集めて、何とか生けましたが、その仕上がりは花や花瓶に、何より阿弥陀さまとご門徒さんに申し訳なくなるようなものでしたね。
おつとめしながらお佛華に視線を向ければ、情けないやら申し訳ないやらで、心苦しかったです。これまで当たり前にお佛華を生けてくれていた母へ感謝すると同時に「このままではアカン、ちゃんとしよう」と思いました。これがお佛華を始めるきっかけになりましたね。
しばらくは本を参考にしながら自己流に生けていました。法事の席でお会いした長老、その方は花方と言ってお寺のお佛華を立てる役を担っておられた方で、上手く生けられずに苦労していると話していると次にお会いした時に「わしはもういらんけえ、これをあんたに託す」と明治立花の指南書をくださいました。今でも大事にしています。それから当時お世話になった方にお声掛けいただき、そこから「備後佛華之会」の一員として開明社「花新」の水本敏夫先生よりご指導いただくようになりました。
ちょうどその頃、私がお寺を継職する時期だったのですが、会のメンバーたちが法要のためにお佛華を生けてくださって。今まで見たことないような立派なお佛華が内陣にお供えされて、感動しましたね。でも感動というものは日常の戻ると醒めてしまいやすいものであるという思いもあって、なるべくこの感動を永く保ち続けたい、これからお寺に参ってくる方々にも同じように感動してもらえるよう、大きな法要だけでなくて一回一回のご法座がお参り下さる方にとっては初めてで最後かもしれないという思いで、続けられるところまで続けていこうと決意しました。
(写真提供:枝廣慶樹さん)
――藤田さんにとってお佛華の魅力とはどういったところですか?
藤田:水本敏夫先生からは「花を際立たせるためには『背景』が大事、前より後ろが大事」と教えていただきました。
お佛華は花が前、主役ではあるのですが、花がなぜ際立つのかと言うと「背景」、つまり後ろ支えとなる幹や松などの青物があるからなんです。そうした青(緑)が花を主役に引き立てて美しく魅せています。
これって私に置き換えても当てはまることじゃないのかなと思いました。私たちも前(わたし)より後ろ(わたしたらしめるもの)が大事で、わが身がなしたこと(前)より、わが身になされたること(後ろ)の方が大事だよなと私なりに変換して受け取ったんです。
つい私が前に出ますし、あまり後ろを見ようともせず、ましてや大事にもしていません。だけど見ても見なくても、知っても知らなくても、私の背景にはいつも私を支えてくれるものがあって、それで私は今ここ(前)にいる。そこに出遇わないといけませんよ。お佛華を通してそんな風にも言ってくださっていると、この言葉を味わっています。そういう意味では「背景」となる幹拵え、役枝作りが魅力というか大事だと思いますね。