「人の死が他人事でした」東京生まれ、在家出身の三浦さんが島根のお寺の住職になるまで。|三浦誠さんインタビュー<前編>

 

最初のページへ

 

何もかもが違った仏教の世界

 

(画像提供:三浦さん)

 
――三浦さんは浄土真宗とは無縁だったとのことですが、初めて仏教や浄土真宗と触れた時はどんな様子でしたか?
 
三浦:東京仏教学院の入試を受ける際、妻には「浄土真宗と親鸞聖人という言葉さえ覚えておけば大丈夫」と言われて行った面接では、面接官から「はじめに組(そ)と所属寺を教えて下さい」と尋ねられ、「『組』ってなんだ?」と戸惑いましたね(笑)。教育業界で働いていたので、浄土真宗の開祖が親鸞聖人であることはさすがに知っていましたが、逆に言うとそれぐらいしか知りませんでした。
 
――入学後も大変だったのではないでしょうか?
 
三浦:大変でしたね。入学したはいいものの、周囲は寺族の方ばかりで、飛び交う仏教用語に混乱しましたし、阿弥陀さまやお釈迦さまの話はまさに「不可思議」そのものでした。
試験も3回ほど再試験を受け、挙句の果てに教科書の持ち込みを許されなんとか合格する始末でした。まさに、落ちこぼれだった私ですが、仕事をしながら頑張って学んでいる姿は評価していただけていたんだと思います。
 
――その後、島根に行かれるわけですよね?入寺した当初はどんな様子でしたか?
 
三浦:そうですね。27歳で入寺し、教員免許を持っていたので当時は地元の小学校に勤務していました。その後、私が30歳の時に義父が往生し、引き継ぎもできないまま住職にならせていただきました。その時は本当に大変でしたね。大体のお参りは住職が担っていたので、門徒さんの名前すら分かりませんでした。
 
特に、私の扱われ方に強烈なカルチャーショックを覚えましたね。東京ではいわゆる一般企業の新入社員として扱われていた人間が、急に「若さん」として手厚くもてなされ、食事では上座に座らせていただけるわけです。お酒も、上司に注ぐ立場から、注がれる立場になりました。これは自分を強く持っていないと絶対に天狗になってしまうなと。お坊さんはそれだけ大切な存在として認識されているからこそ、改めて身を正していかないといけないと思いました。
 
――三浦さんにとって、何もかもが違う世界だったのですね。
 
三浦:そもそも、宗教をやっている人は「ヤバい人」だとさえ思っていました。というのも、私が大学生の時にオウム真理教による地下鉄サリン事件があり、リアルタイムで街が危機的な状況になっているのを見ていたんですよね。なので、宗教に対する偏見があったんです。
 
また、実母が現実主義的な考えを持っていて、中学受験の時に合格祈願で菅原道真が祀ってある東京の湯島天神へ行こうとしたところ「神社に合格祈願へ行く時間で英単語や漢字をいくつ覚えられるのか」と叱られたほどです。でも、納得してしまったんですよね。確かに往復の移動時間でも色々暗記できるなと。
 
さらに、人の生死も他人事でしかありませんでした。そう思う背景事情として、東京は電車の人身事故が多いんですよね。ひとたび人身事故が発生すると、電車に長い間閉じ込められ、会社にも遅刻します。正直「死ぬなら他のところで死ねばいいのに」と思っていたほどで、死ぬのが悲しいと感じることはまずありませんでした。
 
そんな価値観を持っていたので、宗教的な話を受け入れるのが難しかったです。自身の価値観は1年や2年で変えられるものでもありませんよね。
その後、お寺での活動を通して門信徒の方々と接する中で、生きることや死ぬこととの重みが分かるようになったんです。
 

三浦さんが僧侶になって気づいたこととは

 

(画像提供:三浦さん)

 
――それは、どういうことでしょうか?
 
三浦:やっぱり、馴染み深くなった方が亡くなるのはすごくショックなんですよね。そして、私は僧侶として亡くなった方の葬儀をおつとめしなければなりません。生前に良くしていただいたご門徒の方の葬儀を終えて火葬場へ参る時、炉前でのおつとめを終えたらご遺体が荼毘に付されるという現実に、計り知れないつらさを覚えます。やっぱり、僧侶として生きるのにはそれなりの覚悟が必要だと感じましたね。また、僧侶にしかできないことがあると感じました。
 
――浄土真宗の魅力って何だと思われますか?
 
三浦:医療や科学の限界を超え、人の知恵が及ばないところにまで、阿弥陀さまが働いてくださるところに魅力を感じます。私はまだまだ素直に仏教の教えを受け止められていませんが、仏教がないと困るのも事実だと気づかせていただきました。
命を終えた後、なにも用意されていないってすごくつらいですよね。仏さまとならせていただくことを約束されているからこそ、そしてまたお会いできることが約束されているからこそ、私はつらいながらも親しい人の葬儀をおつとめできているのかもしれません。
 
――ありがとうございました。
 

編集後記

 
東京のお寺ではない家庭に生まれ、結婚を機に入寺された三浦さん。私たちお寺の者が過ごしている日常が、世間の方とどれだけ違っているかを教えていただきました。
そんな三浦さんは「ネイチャーレッド」というヒーローのご活動をされているそうです。
インタビュー後編では、引き続き三浦さんにネイチャーレッドのご活動について伺います。
 

   

Author

 

他力本願ネット

人生100年時代の仏教ウェブメディア

「他力本願ネット」は浄土真宗本願寺派(西本願寺)が運営するウェブメティアです。 私たちの生活の悩みや関心と仏教の知恵の接点となり、豊かな生き方のヒントが見つかる場所を目指しています。

≫もっと詳しく

≫トップページへ

≫公式Facebook

掲載日: 2023.03.28

アーカイブ