香りのプロがみた 宗教の力、グリーフケアの未来 日本香堂 小仲正克氏インタビュー<後編>
『青雲』凧あげの集い(静岡県)
ーーご自身の死生観を教えてください。小仲さんならどんな葬儀を望まれますか?
小仲:知人の生前葬に参列したことがあるのですが、自分の感謝を元気なうちに伝えるのは良いことだな、と思いました。生きている方が、周りの方にありがとう、と言える場は大切だと思います。もしかしたらお話できる最期の機会かな、と思いながら大切に時間を過ごせましたし、気持ちのよい、納得感のある時間でした。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
小仲:仏壇関係の企業さんと一緒に旅行に行ったとき、旅の最後にバスガイドさんからこんなお話を打ち明けられました。そのガイドさんは半年前に結婚されたそうですが、出張しがちで旦那さんとなかなか一緒にすごせる時間がなく、その代わりにケータイでその日の出来事などを報告していたそうです。
ところが、その大切な旦那さんを突然の交通事故で亡くされたそうです。いまでは代わりにお線香をたいて、亡くなった旦那と会話をしています、とのことでした。その時、お線香とケータイが、使う方々の境遇によっては同じ価値であることに気付かせていただきました。いまは家の宗教や墓・仏壇が継承されにくい時代ですが、グリーフケアの観点からも、各個人それぞれ、ご家族全員に手を合わせる場所があってよいのではないかと思います。
我々伝統産業は既成概念を引き継ぐという役割がありますが、同時にいまの社会や生活者の意識をとりいれる、という両輪でやっていかなければ成り立ちません。変えない部分と、適応する部分の見極め、そして何よりいまの人に合った価値づくりが重要だと思います。世の中の変化や課題を見据えながら、いままで引き継いだものを、より良くして次世代につないでいければと思います。
ーー本日はありがとうございました。
編集後記
手を合わせることは人に手を差し伸べ思いやることであり、日本の精神文化のベースになっているということ。また、手を合わせることには、グリーフケアの効果があり、ストレス社会における依りどころとなっていること。そして、香りはそれらの作用を高めるはたらきがあることを教えていただきました。
お線香の香りに包まれながら、亡くなった大切な方と対話をする。そして自分自身と向き合う。そのような心豊かな日本の精神文化をこれからも大切にしていければと、あらためて感じました。