「なぜ葬儀に宗教家が必要か。「寄り添う」から「導く」へ。(後編)」小林弘和さん(「お寺でおみおくり」一般社団法人日本寺葬(てらそう)協会 代表理事)インタビュー<後編>
手を合わせることで、自分が肯定されていく。
――お墓はなぜ必要なのでしょうか?
小林:私は幼い頃、家庭が経済的に困窮していて、宗教法人が運営する施設で多感な時期を過ごしました。おばあちゃん子だったので、常に気にかけてくれていた祖母の月命日には必ずお墓参りをしています。手を合わせることで、自分自身の中にあるものをコントロールできてくる気がするのです。
墓石そのものはただの石かもしれませんが、お墓参りは自分自身を肯定して前に進んでいける儀式だと感じています。承認欲求は誰しもあると思いますが、無条件に自分を認めることは、他人はおろか自分自身でも難しいことだと思います。お墓参りによって、自分が認められていく。その意味で、仏さまや故人に手を合わせることは、実は自分のためなのかもしれません。
お墓の展示会の様子(写真提供:「お寺でおみおくり」)
――昨今のお墓や葬儀のトレンドや変化についてどのようにお考えですか。
小林:まずお墓については、納骨手段の選択肢が多様化しています。今後、個人化がさらに進んでいくと思います。親と配偶者とペットを別々のお墓(樹木葬)に入れる方も増えてきました。お金に余裕があって、自分自身の意思を通せる方については、個人の思いを主張するような埋葬方法になっていくでしょう。
団塊の次の世代の方は、ご自分の美学や哲学をお持ちの方が多い印象です。弔いについても、たとえば散骨や宇宙葬などの自由なスタイルのものも積極的に選ばれるかもしれません。それ以外の方も、家系の象徴としての従来型のお墓を選択される余裕がある一方で、それを敬遠して、樹木葬を選んでいく方が増えていくと思われます。いずれにせよ、石や樹木のスペックではなく、個人の意見や思想といった、物語性を反映したものが好まれていくと思います。
また、葬儀については、これまで以上に小規模化していくと思います。現在の家族葬から、さらに小さく定義づけたものになっていくことでしょう。独居の高齢者や単身の方が増えているからです。その結果、葬儀は地域コミュニティで送るという集団での葬儀スタイルに回帰していくかもしれません。震災後に助けあいが広がったように、個人と個人が家系とは違った形でつながる可能性があります。何かに所属すること、つながりを持つことは、自分自身を肯定していく第一歩だと思いますので、意味のあることだと思います。
――今後の展望をお聞かせください。
小林:私どもが寺院葬をはじめて約5年が経ちますが、少しずつ定着しています。昨今は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、近場で家族だけの小規模な葬儀を希望される方が確実に増えていることも一因かもしれません。
ご利用者様からは「大きな葬儀会場ならではの良さもありますが、コロナ禍、これからの時代、身内だけで故人を「お寺でおみおくり」という選択も考えていったら良いと感じました。もっと多くの人に認知されていってほしいです。(「お寺でおみおくり」アンケートより抜粋)」というお声もいただいております。今後はより多くの方に選んでいただけるように、知っていただけるように活動していきたいと思います。
また、昨今は業者やメディアが先行して葬送のあり方をつくっていますが、あらためてお寺を中心とした葬送文化をひろげていく、ということを旗印に、お寺さんと一緒になって葬送文化の再構築をしていきたいと考えております。檀家制度は崩れつつあるかもしれませんが、たとえ地域が小さくなってもそこに住んでいらっしゃる方がおられる以上、依然としてお寺の役割は大きいはずです。寺院葬を通じて、お寺を中心とした本来の葬送文化をひろげていく運動をしていきたいと思います。
――ありがとうございました。
プロフィール
「お寺でおみおくり」一般社団法人日本寺葬協会 代表理事
株式会社やすらぎあん 代表取締役社⻑
昭和48年1月⻑野県上田市生まれ。
16才で墓石店に入社、22才で「やすらぎあん」創業。
墓石耐震施工2件の特許を有し、⻑野県北東信を中心に3,700組以上のご家族とお墓の縁を持つ。
2017年、「荘厳な本堂でのご葬儀」を御旗にした 「お寺でおみおくり」
一般社団法人日本寺葬協会を設立。 ⻑野県北東中信、東京都を中心に
各宗派賛同寺院 133か寺以上のお寺で荘厳な葬儀式をサポートしている。
現在までにお寺での葬儀・法事実績多数。