認知症と親子関係。支援を通して気づくこと|お寺で知る終活講座第2回レポート


 

会場:認知症は、自分が物忘れといった症状に気付いたときにはもう遅いのか?そもそもなぜ認知症とわかるのか?

 
増本:実は私も既に「もの忘れ」を自覚している。以前だったら複数の用事を記憶し、順序良くこなせた。しかし最近は、「えっと、あと何をするんだっけ?」と言う事が増えてきた。以前に比べて物忘れが激しくなったと感じている。ただ大事なのは物忘れの仕方。
認知症と普通の物忘れの違いは、例えば何かを質問された時に、答えは頭にあるが名前が出て来ない。でも何かのきっかけで後から思い出す事ができる。これは正常な物忘れ。質問されたにも拘わず、「全く聞いたことがない」とエピソード自体を忘れてしまう。そう言う時は認知症を疑った方が良い。
 
認知症の診断は認知機能検査や医学的検査(脳の画像診断・脳血流検査など)で診断が付く。認知症は外からわからない「脳の病気」で、生活に大きな支障を来たすようになる。進行すれば「認知症である自覚が薄れる」と言う特徴がある。
もの忘れがあってもメモを取り、備えることが出来る段階は大丈夫。家族や周囲のサポートがあれば、住み慣れた場所でその人らしい生活が送れる。しかし生活に支障が出てくると本人も家族もやっぱり大変。
できれば認知症になる前に、もし自分が認知症になったら?を想像し、主治医(こんな先生に診て欲しい)やサービス内容などを想定しておくのも良い。親子の在り方も含め事前準備は大切だと思っている。
 
:自分で気づくか気づかないかというと、もちろん気づくことはある。気付いた時が遅いかどうかは、それを「遅い」と感じるかどうかだと思う。
認知症は早く病院にかかれば治せるんじゃないか、早めに気づいたら防げるんじゃないかと期待してしまうと、それに間に合わない不安があると思う。しかし、基本的に認知症の予防や進行の防止はほとんどできないのが現実。
とはいえ、認知症になっても、そういうときが来たと捉えればよいのではないか。治すことや防ぐことはできなくても、備えることはできる。それがまさに終活。
認知症に気づく前に、こうして終活を考えることが理想的。そういう意味では皆さんはもうすでにそれに気付いているので遅くないのではないか。
 
 

オンライン:東先生に質問、平均寿命と健康寿命に10年ほどの差がある。この10年はいわば不健康で過ごす期間。この期間が縮まる傾向はあまり見られない。そのような中、終末期は自分自身で意思決定をすることになると思う。自分自身で終末期の意思決定をすることについて大事なことや考慮すべきことがあれば先生のお考えをお聞きしたい。

 
:「健康」と「不健康」の2つに分けられるものではないと思う。「ある程度健康」もあれば「ある程度不健康」もある。準備期間はちゃんとあるので、あまり焦る必要はないと思う。とはいえ、早めから備えておくのは良いこと。
大切なのは、どういった医療を受けたいかを今のうちから考えておくこと。病院死が必ずしも不幸ではないし、誰もが「ピンピンコロリ」で命を終えるわけではなく、死に方は多様。4つのパターンのそれぞれのケースを想定しておくことが大事。
 
 

会場:私は心臓マッサージや挿管は延命かなと思う。加えて、胃ろうや中心静脈医療も家族にとっては延命行為だと思うが、先生はどうお考えか。

 
:「延命」という言葉が何を意味するかは、人によって違うので、答えを出すのは難しい。
それぞれのケースで、ご本人がどういうことを希望されるかを察しながら治療することになると思う。延命については常に悩んでいるので、答えが出ない。
むしろ医療者としては答えを教えて欲しい。つまり予め決めておいてもらえると私たちは決断しやすい。一緒に考えることもできるし、それが理想的ではないか。
 

会場:がん患者の人に行う抗がん剤治療は延命の一種なのか?

 
:抗がん剤によって寿命を伸ばすことがどれほどの価値があるかは人それぞれ。例えば娘の結婚式まで生き延びたいという場合は、非常に意味がある治療だと思う。
がんは意外と先を見通しやすい病気。不幸と考える方もいるけど、余命が分かりやすい。時間が分かっている分、自分で決められる猶予がある。
一か月ぐらい考える時間を取れるのが、がんの特徴。その間にいろんな情報を見ながら治療方針を自身で考えられる。その意味では抗がん剤による治療は、延命とはニュアンスが違うのかなと思う。
 
 

会場:認知症に対する考え方で心が少し救われた。みじめで暗いものばかりではないということを知った。日常生活において認知症の発症と進行を少しでも遅くするために心がけた方がよい、ということがあれば教えていただけたら。

 
増本:生きがいを持つことではないか。どんなことでも良い。大きな生きがいでなくても、例えば私であれば猫を飼っているから、彼らを見届けるまでは頑張ろうとか。
年を重ねるとは「喪失」の積み重ね。だからこそ、どんなことでも良いので生きがいを持つ事が大切。一つでは心もとないのでスペアを持っておかれたら、と思う。
「認知症予防だから」と、無理に自分がしたくないことや、嫌なことをすると、却って血流が悪くなる。歌う時にちょっと足踏みするといった2つの事を同時に行うと脳が活性化しやすいと言われている。日常の中で、自分が「楽しい」と感じる事を増やしてもらえればと思う。
 
:基本的に認知症は老化現象。なかなか治らないし予防もできない。最近薬が出たが、残念ながらほとんど効かない。基本的には認知症を予防できるとしてもバランスのとれた食事と適度な運動の2つぐらいではないか。
 
バランスの取れた食事と、適度な運動は、多少の効果がある。健康的な生活をするのが認知症の予防にもつながるが、あまり気負わずにやっていただきたい。お酒を飲みすぎるのは良くないので、お酒は楽しくほどほどに、毎日を楽しく過ごしていただくのが良い。
 
 

オンライン:東先生へ質問。精神疾患の状態が長くなると認知症になるリスクは増えるのか?

 
:難しい質問。認知症になるリスクが増えるというより、認知症自体が精神疾患の一つという考え方もある。精神疾患がある方が早く認知機能が落ちる傾向にあるのは事実。ただし、今はいろんな治療法があるし、精神疾患でも人生を楽しんでおられる方も沢山いるから、あまり悲観することではない。
 
 
 

   

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掲載日: 2021.12.21

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