カーボンフットプリントと私たちのライフスタイル|地球環境戦略研究機関インタビュー②<前編>

■余裕のない生活がカーボンフットプリントを増やしている?

 
――個人でこうしたカーボンフットプリントの少ないライフスタイルを実行する上で「さまたげ」となっているのは何でしょうか?
 
杉原:国土や都市計画の影響は大きいと思います。たとえば、地方の公共交通網はひとつの課題です。日本では、県庁所在地や人口20万人以上の中核都市であっても、公共交通機関だけでは通勤や買い物などが難しい地域が目立ちます。
 
また、冒頭で地産地消の話が出ましたが、物価の高い遠くの大都市圏向けに農産物や海産物を生産・出荷し、地場のスーパーマーケットには、地元でも生産されている食品含めて、海外からの安価な輸入品が並ぶといった光景も散見されます。社会の仕組みやビジネスモデルとして、カーボンフットプリントを減らす姿勢が求められます。
 
渡部:食べ物にしても、レジャーの機会にしても、学ぶ機会にしても、地元にもいろいろなチャンスがあるはずですが、それらが注目されない理由のひとつとして、価格では国外から買うものに勝てないという面があります。
 
もうひとつの理由として、国内外問わず、仕事や学ぶ機会は現状ごく限られた大都市に集中しています。18歳ごろまでは地元にいた人たちも、進学や職を得るために地元から離れることになりますし、地元に仕事が少なければ、戻ってくることもできません。結果として、地元にある自然資源や文化、インフラなどをきちんと守っていく人が確保できず、地元の暮らしに必要なものを得るにも都市や海外にお金を払って購入しなくてはいけなくなる。そこでまた地元に仕事が生まれにくい状況が続くという悪循環が起きていると思います。
 
一方で、都市に出た人が幸せに暮らしているかといえば、必ずしもそうではありません。海外との競争が厳しい中で、安い賃金で長時間働かされることもあります。時間もお金も限られていると、手間暇をかけて食材などを選んで自分で調理するとか、住んでいる土地にある機会を探してみるといったこともできませんし、周囲の環境や暮らしなどに関する知識や問題を周りの人と共有する機会もなくなってしまいます。
 
こうした問題をどこから解決したら良いのか、なかなか難しいですが、あえてひとつ指摘するならば「働き方改革」かもしれません。
 
私たちは時間やお金に余裕がないため、「今、得やすいものを買って消費しよう」という考え方になってしまいがちです。そこから「今、自分が食べようと思っているものが、環境や社会にどんな影響があるのか」、「どんな人が作ってくれたのか」と考えるようになるには、時間やお金などのゆとりも必要でしょう。
 
また、時間があれば、地域社会に参加して「地元の食材でこんな料理を作ったら美味しいよ」、「遠くに行かなくても休日は地元の面白い場所で過ごしたらいいよ」といったことを発掘する機会も生まれるかもしれません。
 
そういったことの積み重ねで、海外にものを安く売ることでしか国全体が成り立っていかない今の仕組みが、少しだけでも修正されれば、私たちの暮らし全体も変えやすくなるのかなと思います。
 
――私たちには、安さや手軽さだけではなく、他人や未来のことを考えて選ぶための余裕が必要になってくる、と。そんな社会が、カーボンフットプリントを削減して、他のいのちとともに生きていける社会なのかもしれませんね。
 

編集後記

 
食生活を変えること。室内の照明をLEDに変えること。電力会社との契約を見直すこと。公共の交通機関を利用すること。カーボンフットプリントを削減するためにできることはたくさんありますが、私たちに必要なことはもっと根本的な姿勢なのかもしれません。
 
他人のために、未来のために、今から少しだけでも考えること。
ただ便利さや安さに流されて人生を消費してしまうのではなく、他のいのちの未来のために自分の行動の影響を考えられるようになったとき、地球の未来は少しずつ明るくなっていくように思えます。
インタビュー後編では、気候変動問題において宗教や寺院が果たす役割について、引き続きお話を伺います。
 

プロフィール

 

小嶋 公史
小嶋 公史 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)関西研究センタープログラムディレクター・気候変動とエネルギー領域 上席研究員
1994年よりコンサルティング技師として政府開発援助プロジェクトに従事。英国ヨーク大学環境学部で博士号取得後、2005年より現職。主に東アジア地域の持続可能な開発に関する定量的政策分析に従事。専門は環境経済学、環境・開発政策評価。1.5℃ライフスタイルを子ども向けに解説する書籍も監修。

 

渡部 厚志
渡部 厚志 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)持続可能な消費と生産領域 プログラムディレクター
福島原発事故後の生活再建に関する調査等に従事した後、国連持続可能な消費と生産10年計画枠組み「持続可能なライフスタイル及び教育プログラム」の運営を担当。安全・安心で持続可能な生活環境の構築を目指すコミュニティや都市の活動を支援する。1.5℃ライフスタイルを子ども向けに解説する書籍も監修。

 

杉原 理恵
杉原 理恵 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)広報・コミュニケーション シニアプログラムオフィサー
2018年より現職。環境・持続可能性に関する情報発信に従事。小嶋、渡部とともに、私たちの日常生活が気候変動に与える影響や持続可能な未来のためにできる行動を示した児童向け書籍『はかって、へらそうCO2 1.5℃大作戦』(さ・え・ら書房)を監修した。
   

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掲載日: 2021.09.23

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