気候変動問題と宗教の役割|地球環境戦略研究機関インタビュー②<後編>
■IGESのこれから
(写真:ぱくたそ)
――こうした変革を求められる時期にさしかかる中で、IGESの皆さんはこれからどのような活動を目指しているのでしょうか?
小嶋:とにかく、パラダイムシフトに繋がるようなビジョンを提示したい、もっと包括的なビジョンを明確にしたい、というのはあります。この1.5℃ライフスタイルの新しい考え方を市民の皆さんに伝えていきたいし、京都や横浜で行なったワークショップのような、できるだけ多くの人にメッセージが届くような活動をしていきたいと考えています。
渡部厚志さん(以下:渡部):ひとつは、政府や企業、自治体などの大きな変革を担う方に適切な提言をして、一緒に行動していく、そのような観点から皆さんのお役に立つ知識を提供したいと考えています。
もうひとつは「皆さんがなにかに気付くときに、偶然その横にいる人間でありたい」ということです。海外で、ライフスタイルやコミュニティを変えるプロジェクトの支援をしています。現場に行くと「持続可能なライフスタイルって具体的にはどういうものですか」と質問を受けることもあります。それに対して私は「申し訳ありませんが、私にはわかりません」と答えています。
たとえばアフリカの村や、アジアの都市での持続可能なライフスタイルや、現地の方にとって望ましい暮らしの姿は、現地に住む方がよくご存知です。現地の方に、暮らしをこのように変えていきたいという希望があるときに、実現する方法を考える上で、お手伝いできることはあるかもしれません。しかし、どう生きていきたいかは、私たちが教えてもらう立場です。
多少の専門知識があろうと、私たちはよそ者です。当事者にどのようなライフスタイルが良いかを教えるというのは、とてもおこがましいことです。それでも、現地の方の今の暮らしや将来の望みを私たちよそ者に教えることをきっかけに、これからの暮らしをどうしたいか、そのためにどうすべきかを地域の皆さんが考え、気付くことがあるかもしれません。そのときに、その横にいる人間でありたいと思っています。
杉原:私は研究者ではなく広報なので、科学的根拠に基づく正しい情報をわかりやすく、立場や考え、状況を問わず、なるべく多くの人々が取り入れやすい形で届けていくことを意識しています。また、「これが正解だ」と一律的な価値観を押し付けるのではなく、科学的知見に基づいて個人なりの正解を模索し続けていく姿勢自体を広める必要があると考えています。
持続可能性の問題は、「これさえあればいい」「代わりを見つければいい」「こう生活すればいい」といった単純化では解決できません。私たちを取り巻く状況が常に変化する中で重要なのは、どういう観点で事象を検討するか、目の前の選択が世の中にどう影響するか、自分の問題として捉えつつも個人で背負い込みすぎないバランスの取り方といった考え方やアプローチだと思います。それらを考えるときに、IGESの研究や知見が参考になれば嬉しいです。