エネルギーと幸せの問題を考えてみる|地球環境戦略研究機関インタビュー③<後編>

(写真:写真AC)

 

■自分の充足と、次の誰かを考える

 
――それでは、現代で私たちが幸せを目指す場合、どんなエネルギーの使い方が望ましいのでしょうか。
 
栗山昭久さん(以下:栗山):やはり、どういう世界や暮らしを幸せとするのかというビジョンを想定した上でエネルギーを使っていくことでしょうか。
 
日本は、先進国の中では一人あたりのエネルギー消費量が突出して大きいわけではありません。それでも、資源効率性の観点では食料や衣料といった日用品の使い方に無駄があり、今後発展する技術を利用した新たなサービスなどを用いることで、できることもまだまだ多くあるでしょう。そうした日々の生活の変化が重なっていくと、私たちの持つ「豊かな社会」のイメージが変わっていくことも十分あり得ると思います。
 
――今の暮らしのままでもまだまだできることはあるにせよ、これ以上エネルギーを使っても大して幸せになれないのだとすれば、エネルギーに頼らない「次の幸せ」のようなモデルは必要なのかもしれませんね。
 
田中:個人の幸せを追求することや自由を享受すること自体は悪くありません。ただ、どこかで「自分はもう充足したから、他の人の充足のためにこの資源を譲る」タイミングがなければいけないと思います。自分の幸せを追求するところから、他者と共存し、自分の欲望から離れていくような思想が、今の社会システムには欠けています。寺院がそういう気付きをもたらす場所になると良いなと思います。
 
 
 

(写真:写真AC)

 

■寺院は生き方や社会を考えられる場所に

 
――再生可能エネルギーや気候変動といった問題に対して、寺院ができる最大の貢献は何でしょうか?
 
田中:再生可能エネルギーの導入も良いですが、やはりその地域の精神的な支柱としての活動でしょうか。たとえば、近隣住民や関係者が集まって、専門家を招いて将来の社会を考えるワークショップなどができる場になると、すごく良いですね。
 
学生時代に『お寺で宇宙学』というワークショップに参加したことがあります。私がよく知っている宇宙物理学の先生とお寺の方が一緒に定期的に実施されているものです。お寺に集まった地域の人々に対して、先生が宇宙の話を、お寺の方は仏教から見た宇宙の話をして、その内容をもとに参加者でさまざまなことを話し合いました。とても落ち着いて将来や未来のことを考えられる、特別な場所だと感じたことを覚えています。カフェや居酒屋などでは話しづらいことも話しやすいのではないかと思いますので、ぜひそういった取り組みも検討いただきたいです。
栗山:私も寺院にはそういったソフト的な機能、精神的な支柱として地域の人々と一緒に考えていけるところに大きな可能性があると思っています。寺院は死をスタート地点にして、さまざまな問題を考えることができます。
 
たとえば、友人や、家族の死を考えたときに、「生きている自分は何をするべきか」という問いが浮かび上がってくるでしょう。
 
自分や大切な人の生には必ず他人との関係があります。その他人も同じように人生を生きていて、そのまた他人との関係があります。エネルギー問題も、将来世代や、その先の人々の生死につながった問題です。気候変動が主因とされる自然災害も多発していますから、なおさらでしょう。間接的ではありますが、未来の問題の解決には、利他というか、他者の苦悩や死を思う想像力を育てていくことが必要なのだと思います。
 
――他人を思う心、未来を考えられる力が、これからの社会の中では大きな鍵となる。そういった地域をはぐくむために活動できる寺院が求められている、ということですね。
 
 

編集後記

私たちが幸せになるためにエネルギーはどれほど必要なのでしょうか。どこかで満足して、次の誰かのために「自分はもう充足したから」といえるタイミングが必要なのかもしれない、と田中さんはいいます。誰かの苦悩や死、「生きている自分は何をするべきか」を思えれば、と栗山さんはいいます。
エネルギーを大量に使う暮らしが「幸せ」につながらないならば、私たちは立ち止まり、一度振り返って考えなければならないのかもしれません。
 

プロフィール

 

田中 勇伍
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)関西研究センター研究員
2020年より現職。主に兵庫県をフィールドに、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギー普及スキームの開発・実装支援、基礎自治体の計画づくり支援、人材育成などに従事。専門はエネルギーシステムと公共政策。博士(総合学術)。

 

栗山 昭久
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動とエネルギー領域 研究員 
2011年より、IGESにて東南アジア諸国のエネルギー部門向けCO2削減プロジェクトや国際的なメカニズムの定量的評価・制度構築支援に従事。現在は、中長期シナリオに基づく政策評価、ネット・ゼロ社会に向けたエネルギー収支分析、再生可能エネルギー拡大に向けた電力システムや雇用分析など、日本の脱炭素化に多面的に取り組んでいる。工学博士。
   

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掲載日: 2021.11.07

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