「地震」って何だ?地震大国の日本で暮らすということ【東日本大震災編】<後編>
はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災。
後編となる今回は、東日本大震災での教訓を踏まえて、今後発生すると予想されている南海トラフ巨大地震のことや、その際に発生する津波からの避難について、引き続き黒田さんに教えていただきました。
「地震」って何だ?地震大国の日本で暮らすということ【東日本大震災編】<前編>
津波を侮ってはいけない
黒田:続いて、南海トラフ巨大地震についても予習しておきましょう。(「陸側ケース」と呼ばれる、震源域が太平洋沿岸地域により近い場合においては)震度6弱以上の揺れが予想されるのは20県以上に及び、揺れによる全壊は約1,071,000 棟、津波による全壊は約169,000 棟、建物倒壊による死者は約65,000人、津波による死者(早期避難率が低い場合)は約160,000人とも試算されており(*1)東日本大震災と比較しても、全てにおいて大きく想定されています。
【図1】 南海トラフ巨大地震における震度分布予測図(陸側ケース)
――津波についてはどうなるのでしょうか。
黒田:太平洋沿岸に広く浸水域が広がることが想定されていますが、私がとくに注目しているのは津波到達時間の速さです。例えば、静岡県静岡市駿河区には地震発生から16分で最大12mの津波が襲う(*1)とされています。ここで前回の話(阪神・淡路大震災記事へ)で思い出してほしいのは、海溝型の巨大地震の場合は震源が大きいために揺れが長く続くということです。これは地震のメカニズム上避けられないことです。地震観測記録(*2)を見ても東日本大震災のときには3分以上揺れています。
【図2】 大船渡市大船渡町の地震観測記録(*2)
南海トラフ巨大地震で想定される震源の規模はマグニチュード9クラスとされており、東日本大震災と同様の規模であるので、揺れの継続時間は似たようなものになると考えられています。つまり3分間は揺れから身を守る以外、何もできない可能性が高いのです。そうすると、実際には津波から逃げる時間は16分も確保できないことになりますので、あらかじめ津波到達時間から3分引き算して検討・訓練しておく必要があります。
――たった3分ですが、見誤ると大変なことになりますね。
黒田:そうですね。静岡県の資料をよく見ると、津波について「影響開始時間」というのも記載されています。これは50cmの津波が発生するタイミングを表しており、同じく静岡市駿河区では、そのタイミングは3分。これはつまり、3分間の揺れが終わりかけるころにはもう50cmの津波が発生しているということです。
【図3】 静岡県 市町別最高津波水位・影響開始時間・最大津波到達時間(*3)
――50cmであれば大したことないのではないでしょうか?
黒田:いえ、津波を侮ってはいけません。浸水深50cmの津波では、成人男性の約8割が流されるそうです(*4)。また60cmの津波では乗用車が流れ出す(*5)と言われますので、沿岸の車やコンテナ、瓦礫などを運んで自身に迫ってくるとしたらどうでしょう。命に関わる危険性も高まってしまいます。
【図4】津波の高さと死亡率
(引用:朝日新聞デジタル「生かす、津波の教訓」
https://www.asahi.com/special/saigaishi/tsunamikyokun/)