「仏教者の当たり前」?僧侶が取り組むSDGsのお話|西永亜紀子さんインタビュー〈前編〉

「仏教者の当たり前」?僧侶が取り組むSDGsのお話|僧職図鑑21-西永亜紀子〈前編〉

 

SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月の国連サミットで採択された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標です。
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寺院でこのSDGsへの取り組みを推進する「SDGsおてらネットワーク」を代表として立ち上げた浄土真宗本願寺派の僧侶、西永亜紀子さん。SDGsへの取り組みのきっかけや、「SDGsおてらネットワーク」の活動などについてお話を伺いました。

 

 

自分自身の問題として始まったSDGsへの取り組み。

 
――西永さんが僧侶を志されたのは、やはり寺院のご出身ということが大きいのでしょうか?
 
西永亜紀子さん(以下:西永):そうですね。20歳の時に得度したんですけれども、その頃は「お坊さんになるんだ」とかそういう意気込みは何もなく、寺院に生まれたら得度するものなのかな、と勝手に思っていて、自動的に得度した感じがあります。
 
――SDGsに興味を持たれたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
 
西永:きっかけは、九州で寺院の坊守をしていたときのことです。その頃の仏教界は、性別によって役割が固定されてしまうような雰囲気があって、ちょっとこれではいけないんじゃないかと、悶々としたものを抱えていました。そんなとき、たまたま友人がブログでSDGsの事について書いているのを見たんです。SDGsの17の目標のうち、5番目に「ジェンダー平等を実現しよう」という項目がありまして、これは私が取り組みたい課題だな、と考えました。
 
――なるほど。ジェンダーの問題からSDGsに取り組まれたんですね。今もジェンダーの問題を中心にSDGsに取り組まれていらっしゃるのでしょうか。
 
西永:もちろん今でもジェンダーギャップ問題については力を入れていますが、今はSDGsの17の目標全てに取り組んでいます。というのは、SDGsの17の目標は全てつながりがあるからです。例えば途上国における女性や女児に対する差別がなくなると、今まで女性というだけで学校に通えなかった子供たちが教育にアクセスできるようになり、収入の良い仕事に就ける機会が増え貧困の解決につながります。ですから、確かにきっかけこそジェンダーの問題でしたが、今は色々な課題を見つけて、それらの解消に向けて全体的にSDGsの活動に取り組んでいます。
 
原田義昭元環境大臣と記念撮影
 

SDGsを通じた多方面における活動を続ける

 
――2018年の9月に、「SDGsおてらネットワーク」という団体を代表として立ち上げられたということですが、これは具体的にはどういった団体なのでしょうか?
 
西永:SDGsおてらネットワークは、僧侶が宗派の垣根を越えて運営している団体で、私(浄土真宗本願寺派)以外にも、浄土宗の方や、本門佛立宗の方などが参加しています。Facebookのグループを利用して活動しておりまして、年に一回有識者の方をお呼びしてセミナーを開催したり、2030SDGsというカードゲームを使って皆さんにSDGsの世界観を体験していただく機会を作ったりという啓発活動をしております。
 
――SDGsおてらネットワークには、何名くらいの方が参加されているのでしょうか?
 
西永:私を含めて運営は7名、メンバーは180名ほどでしょうか。団体といっても、今のところFacebookのグループのメンバーになっていただいているだけなので、メンバーの方々の中には、ただFacebook上にいて、情報を見ているだけの方もいらっしゃいます。活動としては、運営の7名が個別に講演をしたりすることが多いですね。
 
――各々の方が、ご自身の所属される各宗派で啓発活動をされる、というのが主な活動ということでしょうか?
 
西永:そうですね。今はそういった活動が中心です。
 
――確か先日も築地本願寺でSDGsの活動があったと聞いております。そちらも西永さんを中心に行われたのでしょうか?
 
西永:先日、築地本願寺で行われたのは今年度から立ち上がった築地本願寺SDGsプロジェクトによる職員向けの研修会ですね。私を中心に7名のプロジェクトメンバーで活動しています。
 
――なるほど。SDGsを通して多方面でご活動されているんですね。
 
SDGsおてらネットワークによるセミナーの様子
 

「仏教者の当たり前」としてのSDGsへの取り組み

 
――SDGsにはジェンダーの問題を通して入られたということですが、西永さんにとってSDGsとはどのようなものなのでしょうか?
 
西永:子や孫、未来の世代までに、より良い世界を実現し、それを残していくためのツールだと認識しています。
 
――やはり、西永さんは世界がこのままの方向性で進むと、より良い世界の実現は難しいという感覚をお持ちなのでしょうか?
 
西永:そうですね。国や自治体、NPOなど、社会を良くするために活動を続けてくださっている団体はありますが、そういった団体だけに任せて、自分には関係が無いという顔ができるような次元の問題ではなくなっていると思います。世界に住む全ての人々が、自分の問題として、自分にできる範囲で世界を変革していかなければもう間に合わないという危機感があります。
 
――SDGsのご活動を続ける中で、そういった危機感を深められたと思うのですが、そのなかで印象的であった出来事などはありますか?
 
西永:やはり私はジェンダーの問題からSDGsの活動に入っているので、人権に対する意識というか、そこに対する思いが強くあります。様々な団体の方からお話を伺っていますと世界中の色々な国でのジェンダーの問題を良く聞きます。たとえばアフリカのある村では、女性というだけで全く教育を受けることが出来なかったり、儀式の一部として女性の身体が傷つけられたり。そういったことが世界で続けられているということは、自分のことでは無いにせよ、私としてはかなり苦しいことで、印象的なお話として良く覚えています。
 
――西永さんが宗教者としてSDGsの活動をされるとき、どういったところにそのモチベーションをお持ちでしょうか?
 
西永:仏教の教え、特に浄土真宗の教えは、あらゆるいのちを分け隔て無く救うという仏さまの願いを私たちが聞かせていただくところから始まっていると思うんです。そういった仏さまの願いと、SDGsの前文に掲げられている「誰一人取り残さない」という理念は非常に親和性が高いものであるように感じます。これまでに仏教徒が社会にしてきたことや、仏教の持つ縁、自利利他円満、少欲知足といった教えはSDGsに通ずるところが多くありますよね。言ってしまえば、宗教者、とりわけ仏教者がSDGsに取り組むのは、今までやってきたことを続けるだけの、仏教者として当たり前のことだという認識です。
 
――なるほど。こういった言い方はちょっと語弊があるのかもしれませんが、世界が仏教に追いついてきたぞ、といったところがあるということでしょうか?
 
西永:そうですね。やっと仏教の本質に気づいてもらえたか、といった感じなのかもしれませんね。

 
<編集後記>

ご自身の感じた問題をきっかけに、SDGsへの取り組みを始められた西永さん。
SDGsの活動は決して他人事ではなく、世界に住む全ての人々が、自分の問題として、自分にできる範囲から取り組むべき問題であるとおっしゃいます。また、仏教徒にとってSDGsはある種当たり前のことであるというお話も非常に興味深いものでした。
次回はどうやってSDGsへの取り組みを始めるのか。そして寺院がSDGsに取り組むとはどういうことなのかについて、西永さんにお話をお聞きしていこうと思います。
 

 

 

西永亜紀子さん・・・・・・SDGsおてらネットワーク代表。浄土真宗本願寺派僧侶。1971年生まれ。和歌山の浄土真宗本願寺派の寺院に生まれる。20歳で得度。現在築地本願寺職員。2018年9月にSDGsおてらネットワークを設立。SDGsに関する多方面で活動中。
   

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掲載日: 2020.10.30

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