小さなきっかけ、大きな一歩。SDGsで広がるご縁|西永亜紀子さんインタビュー〈後編〉
ご自身のジェンダー問題への疑問を入り口にSDGsへの取り組みを始め、いまは多方面でご活躍をされている浄土真宗本願寺派の僧侶、西永亜紀子さん。
インタビュー後編では、そんな西永さんからSDGsへの取り組みはどうやって始めたら良いのか、そして寺院がSDGsに取り組むとはどういうことなのかについて、お話を伺いました。
<インタビューを最初から読む>
「仏教者の当たり前」?僧侶が取り組むSDGsのお話|僧職図鑑21-西永亜紀子〈前編〉
まずは生活の中で課題を見つける
――お伺いしている中でSDGsは一人ひとりが知っていくことが大切なように思えます。そういったことでおすすめの資料や学び方はありますか
西永亜紀子さん(以下:西永):前回少し触れましたが、2030SDGsというカードゲームは楽しくSDGsの世界観を学んでいただけるのでおすすめしています。資料は『未来を変える目標、SDGsアイデアブック』という本があります。全編カラーで、目標ごとに取り組んでいる団体と、その活動が紹介されています。とてもわかりやすいので、こちらもおすすめです。
――SDGsへの取り組みは、どのようなことから始めれば良いでしょう?
西永:やはり、普段から課題だと思う問題に、少しでも実際に取り組むことが一番大事だと思っています。それぞれの人が、生活をしていく中で「これはちょっと」と思う課題を見つけて、それに対して小さな事でも良いのでまずやってみるということですよね。その一歩が、大きなうねりとなって世界を変えていくものだと思っていますので、まず身近なところから始めてみることが大事だな、と思っています。
――西永さんは、どういった活動から始められましたか?
西永:私は、日常でのジェンダーの問題に関する気づきをSNSで発信するところから始めました。ほかにも、クラウドファンディングで紙ストローを広めて、そこから気候変動やゴミの問題の啓発につなげたりもしました。
――他にはどのようなことをご発信されておられますか?
西永:エシカル(「倫理的」「道徳上」と言った意味を持つ形容詞。転じて「法律などの縛りがなくても、みんなが正しい、公平だ、と思っていること」を意味する。近年では「環境保全や社会貢献」という意味合いが強くなっている)についても発信します。具体的にはバナナペーパーの使用の推進や、エシカル消費についてですね。
買い物をするときに、安いものがあったらつい飛びつきたくなるんですけれども、エシカルを意識するようになって、影響を考えるようになりました。その安さの裏側に何があるのか。もしかしてどこかで知らない人が安い賃金で働かされているんじゃないか。もしこの商品を買ったら人を安く働かせている企業を応援することになってしまうのではないか。
ただ単にものを買うだけではなくて、それがどう作られて、それを私が買うことで社会にどう影響が出るのか。消費行動の中でそういうことまで考えるようになりました。
――ものだけではなく、その背景まで考えて生活する、ということでしょうか?非常に仏教的な印象を受けます。
西永:そうですね。仏教の縁起、つまり全ての事象はつながって相互に影響し合っているという教えが、私の中にあったから、そういうものの見方が出来るようになっていったんだと思います。
――なるほど。ですが、そういった見方が出来るようになるまでには、やはりかなり意識的な学習が必要になるように思われます。やはり西永さんもそういった学習のためにかなりお時間を割かれたんでしょうか?
西永:そうですね。SDGsに関する勉強会などには一生懸命出るようにしています。また、エシカルについても、セミナーなどに良く出ております。一般社団法人エシカル協会の代表理事の方を紹介していただいて、その方に寺院の女性向けの、エシカルについての研修会を開いていただいたこともありますよ。
――参加された方の反応はいかがでしたか?
西永:女性は消費行動としてお買い物を日常的にされていて、興味がある方が多いので、エシカル消費について特に詳しくお話しいただいたんですが、お買い物の時にこういうことを考えて選ぶのが社会や地球にとって有意義というようなことがわかって大変勉強になりましたし、参加された方の反応も非常に良かったです。
(西永亜紀子さん)
SDGsをきっかけに広がるご縁
――宗教者、特に僧侶がSDGsをはじめるにあたって、寺院にどのようなメリットがあるかなど、お考えはありますか?
西永:たとえばビハーラ活動など、SDGsに当てはまる社会貢献活動というのは、浄土真宗本願寺派の寺院でもやっていますよね。ですが、その活動をする際に「ビハーラ」という言葉を使ってしまうと、内々の方には通じますが、他業種の方や一般の方といったいわゆる外の方には通じません。SDGsは国際的な用語なので、これらの活動をSDGsと言い換えて、ウチでもSDGsに取り組んでいますよ、とお伝えすれば、一般の方や他業種の方にも通じますし、何か一緒にやりませんか、というお話も結構来ます。
――SDGsを通して、寺院のご縁というか、関係が広がる、ということでしょうか?
西永:そうですね。それこそSDGsの17番目の目標に「パートナーシップで目標を達成しよう」とありますが、そういったパートナーシップを異業種の方と執り行っていく上では、SDGsという言葉を使った方が良い、という風には考えています。
また、僧侶として異業種の方と協働するわけですから、その際に自然と仏教の教えにも触れていくことになると思います。そうすることによって、仏教とはこういう教えだったのか、と気づいていただく入り口になるというメリットもあります。
――SDGsという言葉を使って協働しやすくすることで、自然とご縁が広がっていくという考え方ですね。しかし、日常的に運営が困難で、そういった新しい活動を行うのは難しい寺院もあるように思います。そういったところについて何かお考えはありませんか?
西永:SDGsというと横文字で、国際的で、自分たちとは別世界の意識の高い人たちがするもの、という印象があって難しく感じるのかもしれません。ですが、前回にもお話させていただいたように、SDGsのための活動にはこれまで仏教徒や寺院がしてきた活動が含まれています。もったいないね、ものを大事にしようね、そういった事を啓発する活動もSDGsに繋がっています。今は発信するツールがたくさんありますので、そういったことを「寺院でSDGsに取り組んでいます」と発信していただくだけでも、立派な取り組みであると思います。
――なるほど。これまで寺院で当たり前に行われていた活動をSDGsの活動としてとらえ直すことができると考えれば、SDGsは決して難しいものではなくなる、と。これまで婦人会や青年会で行っていたことをSDGsの活動の一環ととらえ直し、発信していくのも良いのかもしれませんね。
(西永亜紀子さんと曹洞宗四天王寺住職倉島隆行師)
寺院だからできるSDGsへの取り組み方へ
――最後にSDGsという目標に対して寺院が出来ることは何でしょう?寺院ならではの動きはありますか?
西永:寺院という場所は年代や立場を問わず、様々な方が集まります。そういった方々に対して社会貢献活動をアプローチできるのは、寺院という活動拠点を持つ僧侶の特権ではないかと思うんですね。寺院という広いスペースがあって、たくさんの方が来て下さる。SDGsをはじめとした様々な活動のためのリソースが整っています。
たとえば、高齢者の方には「もったいない」というお気持ちで、ものを大切にされる方がたくさんいらっしゃいますよね。そういう「もったいない」というキーワードをもとに、高齢者の方に活動をしていただくのは、お金もかからず、新たな知識も必要とせずに、寺院という場を提供するだけで簡単にできることです。若い方には、寺院を知っていただいて、新しい発想をもとにSDGsの活動を発信してもらえます。そういった世代を超えた様々な方々の協働も、寺院ならではだと思います。
<編集後記>
西永さんのSDGsへの思いは、ご自身の体験と、仏教徒としての自覚の双方からなるものでした。生活の中から課題を見つける事を入り口に、自身の影響力を考えながら取り組んでいく西永さんの生き方は、これからの地球環境を考える上で非常に重要になってくるのではないでしょうか?
「SDGsの活動の中にはこれまでの仏教徒や寺院の行ってきた取り組みが含まれている」と話す西永さん。寺院でSDGsに取り組む場合、無理に新しいことを始めるのではなく、できる範囲からこつこつと変えていくことが大切なようです。
西永亜紀子さん ありがとうございました。