僧侶として、性のこと、いのちのことを考える|古川潤哉さんインタビュー<前編>
僧侶(お坊さん)というと一般社会の中でも「異色」の存在として扱われることが、往々にしてあります。今回お話を伺ったのは、そんな僧侶のなかでもまた「異色」な活動をしているお坊さん。お坊さんの衣を着たまま、中学校などで性教育や、エイズ支援の活動に関わっている佐賀県のお坊さん、古川潤哉さんです。
ーー古川さんは、さまざまな活動をされていらっしゃいます。浄土真宗本願寺派では、少年連盟・キッズサンガの委員。それとは別にビハーラ、ホスピスといった終末期医療に関わられたり、思春期を含む若い人を対象とした、性やセクシャリティの問題、HIV等の性感染症の問題にも関わっていらっしゃいます。
古川潤哉さん(以下:古川):それ、むずかしいんですよね。実は僕の中ではあまり区別がないんです。HIVに関わったのも、最初はホスピスに関わってたからで…。
佐賀に帰ってお寺の仕事をしながら、ホスピスの支援や理念を普及する市民団体で活動していました。
在宅の緩和ケアも増えてきていますが、病棟としてのホスピスには、がんの末期とHIVの末期だけが入院できるという厚生労働省の規定があります。ですから、他の重篤な、治せない病気の人であっても入ることができません。
がんについては、20年くらい前は、結婚に関してとか、差別がありましたが、いまはもうそれはほとんど無くなってきました。また、支援する人も増えています。それで、「ガン支援はもう人がいっぱいいるから、若い人でHIVの支援をしてくれよ」と言われて、HIVの支援をする勉強を始めました。
ーーホスピスの活動から、HIVの支援へと。
古川:そう、でも佐賀だとHIVの患者さんが少ない上に、いらっしゃったとしても、田舎過ぎてカミングアウトできないんです。だから表立って支援というのは、ほとんどできない。
そういう状況でも、当時は厚生労働省から各都道府県にHIVの支援関連に予算が付いていて、その予算で、たとえばHIVの講演会をやると、性感染症の問題の中心にいるはずの若い方はほとんど来ない。それで、なんとか若い人たちに関わってもらおうということで、医学生や看護学生さんを集めて、クラブやライブハウスで啓発活動をしようということになりました。やっていると、HIVそのものの問題よりも、他の性感染症とか、男女交際とか、コミュニケーションとか、他のそういうところの問題の方が、より手前にあるんだとわかってきたんです。それで、思春期支援の活動につながっていきました。
ーーホスピスから、HIV、それから思春期の支援というのは、全部関連する活動なんですね。
古川さんは、その思春期支援の一環として中学校での性教育に関わっていらっしゃるんですね。
しかも、お坊さんとして、お坊さんの格好で出かけていって!
古川:そうなんです。学校に行くと、性教育の話だって聞いていたのに、坊さんでてきたぞ!って。(笑)
それで、お坊さんが出てきたら、おそらく道徳的な話をするんだろう思われるでしょうけど、そんな話はしないんです。命の大切さを表現するときに、家族や家族のつながりなんかを語ってしまうと、中学校でも、家族が嫌いでしょうがない子、家族の無い子もいるんです。そういう点にも配慮しないとうまく伝わらない。
主に、中学三年生が対象の授業です。「あなたはいま生きていて、命があるつもりでいるけれど、その命はいつからあるの?」と聞いたりします。「生まれてから死ぬまで」と狙い通りに答えるんですけれど。いやいや、お母さんのお腹のなかにいたでしょ、と。「あなたが生まれた10月10日前になにがあったの?」と聞くと、「答えられない」というけれど、「あなたがそこにやどったということは、あなたになった受精卵がそこにできたということでしょう」という。顕微鏡写真を教科書でみたことがあるでしょう?
精子は常に作られるんですが、卵子になる細胞は女の子が生まれたときからあって増えないから、その卵子は、いつからあるかというと、お母さんが生まれたときから、ということになります。お母さんが生まれたときというのは、おかあさんがおばあちゃんのお腹の中に宿ったときからあるということ。それで、ずっとさかのぼれるじゃないの、って。
これ、婦人科の先生がいったら、当たり前のことなんですが、お坊さんがいうと、お坊さんが、そんなことをいうんだって聞いてもらえる。
それから、終わりもわからないという話もあります。
死んだら火葬される。ちょうど2年生で「燃焼」を習う。理科でならう「質量保存の法則」って知っているよね。焼かれる前と焼かれたあと、どちらが重そうにみえる?遺体の方が重そうに見えるよね。でも、それではおかしい。お骨と灰は目に見える形で残っているけど、それ以外は、熱、水蒸気、いろんな気体などに化学変化して大気中に還元される。次の命を育む可能性もあって、ずっとつながり、循環しているんだよ。と。そういうところを科学的な視点でお坊さんが衣をきて言うと、無駄に説得力が上がるわけですよ(笑)
今、興味がある。伝わりやすい。そういうことを話す。そういうやり方で、命と性はバラバラではない。性の問題は、気持ち悪いことではなくて、大事なことなんだよということを伝えたりしています。
ーー伺っていると、形の上では科学的だけれど、話されている中身は、非常に仏教的に聞こえてきます。
古川:現代人が聞きやすい話に変換しているんですね。
ーーそういう新しい試み、お坊さんが「性教育」というちょっと聞けば驚くようなことをされていて、批判をされたり、たたかれたりってことはないですか?
古川:いまのところはありません。子どもたちが感想に「講師がエロ過ぎてびびった」と書かれたりはしました(笑)。
いや、エッチなことはあんまり話していないんですよ。田舎の中学生は純朴なんです。「保健体育で思春期について習ったでしょう。第二次性徴でわかりやすい体の変化ってなに?」ってマイクを向けるとみんな答えられなかったりするわけです。みんなわかっているけど、はずかしくて言えない。それで、「声変わりとかあるやん」というと、生徒は、「なんだ~!そっちか~!」と。その答えられない感じこそ思春期なんですが、そういういじりかたをするので、エロいといわれたりするんでしょうか。
ーーいいネタですね(笑)