飛び出した住職がお寺に戻るまで|雪山俊隆さんインタビュー<前編>

誰も自分を知らない場所で、心の整理をつける

 
――お寺を出て、どうされたんですか?
 
雪山:その辺は正直、記憶が断片的です。本当にいっぱいいっぱいだったんでしょうね。大阪にいらっしゃった行信教校時代の恩師、梯実圓(かけはし・じつえん)先生のお寺に、約束も無く押しかけまして。たまたま先生がご在宅だったんですよ。話を聞いてくださいました。
 
僕はボロボロ泣きながら、それまでの一連のことを話して。多分、支離滅裂だったと思います。でも先生はそんな僕のことを受けいれてくださって。そのあと、「先生の鞄持ちをさせていただけないでしょうか?」ってお願いしたのは、とても上手に断られてしまったんですけど。
 
――断られたんですね。
 
雪山:断られました。「そういうことが出来る時代もあったんやな」って。ただ、僕も、話を聞いてもらえて、だいぶ落ち着いていたんですね。「そんなもんかな」って納得してしまいました。今考えると、何回か押しかければ出来たのかも知れません。
 
――その後はどうされたんですか?
 
雪山:先生と話をしてから、そのまま京都に出て、その日のうちに下宿を決めました。そのとき、ようやく親にも電話をして。数日の間にアルバイトも決めて、フリーター生活を1年ほど送りました。
 
何もない。誰も自分のことを知らない。そんなところからスタートして、生活と一緒に、ひとつずつ心の整理をつけるような1年間でした。
 
――完全にこれまでの生活からは離れていたんですね。
 
雪山:ええ。でもそんな1年の終わり頃に、ふと、梯先生が話の中で、浄土真宗本願寺派の儀礼の専門学校である勤式指導所を勧めてくれていたことを思い出すんですよ。あのときは断ってしまったけれど、あれは何だったんだろう、と。
 
1年間の生活の中で、自分の帰る場所はお寺で、そこしかないのかもな、とは考えていました。でも、そもそも帰ることが、許されるんだろうか、とも。
 
それで、飛び出したはずのお寺に連絡して、事情を説明しました。もし帰れるなら帰りたいし、そのうえでもう1年だけ勤式指導所に行かせてもらえないか、ということを母に話して、受けいれてもらったんです。
 
――勤式指導所での生活はいかがでしたか?
 
雪山:勤式指導所での生活は、お経を読み、仏さまの言葉にふれる。それだけです。そのシンプルな生活が、本当に心地よかった。これまでの人生で、あんなに1つのことだけに集中したことは無かったんじゃないかな。自分の中ではとても有意義で、梯先生はこのことをおっしゃっていたのかと気付いたときには心が震えましたね。
 

お寺に戻って、それから

 

(写真提供:雪山さん)

 
――そこから、またお寺に戻られたんですよね。
 
雪山:そうですね。戻りました。色んな人を裏切ってしまったという罪悪感がものすごくあって、謝りにも行ったんですが、こちらが思っていたほど深刻ではなくて。「おう、帰ってきたんか」みたいな感じに、結構ライトに迎えてくださったんですね。
 
――それはちょっと拍子抜けというか、複雑ですね。
 
雪山:そうですね。ただ、色々なことに整理がついたせいか、ここからは一歩ずつだなという意識は強くありました。「朝のお勤めに欠かさず出よう」とか、「毎朝掃除をしよう」とか。継続しながら出来る事をひとつずつ積み上げていきましたし、それを大事にしようと決めていました。当たり前の事をひとつずつやっていこう、と。
 
自分はそれまでそうしたところに意識していなかったんですね。自分がしたい事ばかり考えていた。それをとりあえず横に置いて、一歩ずつという気持ちで歩み始めたような感じです。
 
――それまであった、焦りや義務感が抜けたんですね。
 
雪山:そうですね。あれしなきゃ、これしなきゃ、という気持ちは落ち着いた気がします。とはいえ、ご縁なのか、そこから色々動き始めるんですよね。
 

インタビューは後編に続きます。後編では、雪山さんが生活の中で出会った多くのご縁や、気づきについてお話を伺いました。
 
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人に向き合うための「トライ&エラー」|雪山俊隆さんインタビュー後編

 

プロフィール

  

(写真提供:雪山さん)

雪山俊隆(ゆきやま・としたか)
富山県黒部市宇奈月町 白雪山善巧寺住職
1973年生まれ。2006年より音楽イベント「お寺座LIVE」をスタート。また、同年にニフティ(株)の主催する『PODCASTING AWARD 2006』で審査員特別賞を受賞。同時期に全国の僧侶仲間と仏教コミュニティ「メリシャカ」を結成する。現在は月二回の定例法座である「ほっこり法座」をはじめとした寺院活動に力を注ぐ。
   

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掲載日: 2022.01.20

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