「お念仏がありがたい」と感じる僧侶が奏でる音色│秋津智承さんインタビュー<後編>
「お念仏がありがたい」と感じる僧侶が奏でる音色
――お寺を会場としてチェロを演奏することのメリットはどういった部分だと感じられますか?
秋津:もちろん物理的に音の響きを考えると、お寺という環境は適していると言えません。しかし、コンサートホールに比べて来てくださる方とのやりとりはしやすい環境だと言えると思います。やり取りというのは会話だけではなく、こちらの演奏に対する皆さんの表情も含みます。喜んでおられるな、とか、何か思うところがあるのかな、とか。僧侶になるまではコンサートホールでの演奏が中心だった私にとってはそういった反応はすごく新鮮でありがたいですね。
西洋の音楽と仏教が掛け合わされる空間も面白味があると思っています。人が何かを感じて音楽は作られるわけですから、そこは宗教が何であろうと共通しているものは確かにあるんですよね。音楽に境はないと感じます。
――では、秋津さんが演奏家としてチェロを弾かれるときと、僧侶としてチェロを弾かれるときで意識されていることや違いはありますか?
秋津:演奏家としてコンサートホールで弾くときは、主に私が弾きたい曲やホールの広さなどによって一番チェロのパフォーマンスがうまくできるように選曲しますが、お寺で弾くときはホール以上に来られる方のことを意識しますね。
また僧侶として演奏するときには、後ろに阿弥陀さまがおられることが大きいですね。曲が終わると自然と「南無阿弥陀仏」と言葉が出てきます。それなしには終われません。お念仏をよろこぶ私がさせていただいている演奏を、少しでも皆さんと一緒に聞かせていただけたらいいですね。
――ありがとうございました。
(写真提供:秋津さん)
さいごに
音楽をはじめ、具体的な言葉にしない芸術ほど伝える側に嘘があるといけないと思います。秋津さんの演奏を聞いて涙される方がいらっしゃるというお話がありましたが、それはお念仏をよろこぶ秋津さんの伝えたい思いや、仏教の教えが言葉でなくてもきちんと伝わっているということではないかと思うインタビューでした。
秋津さん、ありがとうございました。
プロフィール
秋津智承(あきつ・ちしょう)さん
8歳より桐朋学園「子供のための音楽教室」広島教室にて斎藤秀雄氏よりチェロの手ほどきを受ける。桐朋学園大学、ボストン・ニューイングランド音楽院を卒業。1977年第46回日本音楽コンクール第2位、1986年第8回チャイコフスキー国際コンクール第7位入賞。
これまでに仙台フィルハーモニー管弦楽団、広島交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団の首席チェロ奏者を歴任するほか、桐朋学園大学・広島大学で講師を務める。僧侶でまたチェリストとして、広島を本拠にコンサートやセミナーの主宰を多く手がけている。願船坊では5月半ばにお庭コンサート。9月初旬に平和コンサート、大晦日にゆく年くる年コンサートを開催する。毎水曜日には朝活・朝コンなど、積極的なコンサート活動を行っている。