仏教界のフロントランナーから見た「日本の仏教」とは|松本紹圭さんインタビュー<前編>

 

本当に無宗教?日本に根づく民芸的な仏教

 

(画像提供:松本さん)

 
――仏教の中でも浄土真宗を選ばれたのはどうしてでしょう?
 
松本:それはご縁でしかないと思いますが、あえていうなら「浄土真宗」という他力念仏の仏道は、民芸的で、生活と結びついているところにすごく関心がありました。「民芸的」というのは、特別な実践があるわけではなく、生活そのものの中に仏道があり、突き詰めれば生活そのもの、生きること死ぬことそのものが仏道であるということです。
仏教学者で、日本の禅文化を海外に広く知らしめた鈴木大拙も「僧侶」だから実践していたのではなく、自己認識として「念仏者」だったから実践していたと思うんですよね。そんな、生きることそのものに仏道を見出していく大拙の生き方にも影響されていると思います。
 
――「民芸的」な仏教とは、どういったものでしょうか?
 
松本:例えば、民芸的な仏教を英語で表現するならば、「アンビエントブディズム」になると思います。つまり、風土や環境、文化といったさまざまな要素が入り混じって、まるで空気のように溶け込んでいるのが日本の仏教ではないでしょうか。
 
日本人に「あなたはどの宗教を信仰していますか」と尋ねたとき「私は無宗教です」と答える人はたくさんいます。一方で、多くの人はクリスマスも祝うし、正月は初詣にも行きますよね。
つまり、私たちはまるで毛穴から入ってくるような形で宗教を浴びていて、あえて信仰しようと意識しなくても、風土の中で溶け込むような形で宗教に触れているんだと思います。
ですので、例えば海外の方がアンビエントブティズムに触れるためには、日本にきて一緒に生活してもらうしかないと思うんです。
 
――禅とアンビエントブディズム(風土仏教)の違いはどういったところにあると思われますか?
 
松本:端的に述べるなら、自力的か他力的かの違いではないでしょうか。
最近は仏教的な考えや実践を自らの生活に取り入れて、マインドフルに生きたいと願う人は増えています。その中で特に日本仏教と最初に重なったのが「禅」であり、その中でも坐禅にマインドフルプラクティスとしての活路が見いだされ、上座部系のメディテーションと共に注目されるようになってきました。坐禅の形として身体を整えるというのは、個人の実践として、必ずしも仏教的な文化の中に居ない人でも取り入れやすいと思うんです。
 
しかし、何かを目指して”私が実践する”ような状態が続けば、やがて壁に当たります。自力的アプローチの限界とでも表現しましょうか。もちろん、まずはやってみるところからだと思うのですが。
 
アンビエントブディズムは風土に既に溶け込んでいて、自然に受け入れていくものなので、その意味で非常に他力的だと思うんですよね。そこに「阿弥陀さまの働き」と明示的に名付けるのが浄土真宗の文化の人たちかもしれませんが、浄土真宗の文化圏外の人たちでも浄土真宗的な触れ方が可能だと思うんです。
 
例えば、おじいちゃんやおばあちゃんが毎朝お仏壇のお世話をして、正信偈のおつとめをして、手を合わせるというのも、マインドフルネスを得ようと思ってやっているわけではありませんよね。結果的にマインドフルネスの効果はあるかもしれませんが。
ですので、わざわざ「マインドフルネス」と表現しなくても生活の中にある仏教としてずっと保たれてきたのがアンビエントブディズム(風土仏教)ではないでしょうか。
 
――そんなアンビエントブディズムは今後どういう形になっていくと思われますか?
 
松本:現状、日本ではアンビエントブディズムが保たれてきた風土が急速に失われつつあるという問題があります。これまでアンビエントブディズムが成り立っていたのは、日本社会が「風土」を守ってきたからだと思うんですよね。そして、風土は日本語にも埋め込まれています。つまり、日本語で思考する人はその過程で仏教要素を通過せざるを得ませんでした。
ところが、日本語文化圏に暮らしている私たちが保ってきたはずのものが失われ、もはや日本語圏外の文化にどんどん近づいていっています。失われている日本の風土が数多くあると思うんですよね。
 
ですので、今後は現代にあった工夫をして、そうした風土的なものを大切にしようとする人が世界中でつながって、アンビエントブディズムをみんなで盛り上げていくことが求められていると思います。
そうしたアンビエンスは一人でつくれるものではなく、みんなで相互作用的に醸成していくものだと思うので、今であればSNSを活用すると効果的なのかもしれません。
 

人類に求められる、価値観の転換

   

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掲載日: 2022.09.07