仏教界のフロントランナーから見た「日本の仏教」とは|松本紹圭さんインタビュー<前編>
人類に求められる、価値観の転換
(画像提供:松本さん)
――なぜアンビエントブディズムを広める必要があると思われますか?
松本:明確な理由として、もはや地球環境の深刻度が、人類が立ち行かないところまで来ているという現実があります。そして、その解決に風土仏教的な価値観の取り入れが必要だと思っているからです。
「人新世(ひとしんせい・じんしんせい)」という言葉があります。地質学における時代区分の一つで、地質年代的にもここ50年ぐらいは、あまりにも人間の活動が地球に影響を与えすぎた時代と捉えられています。
これまでは人類の活動によって排出されるものはすべて地球が吸収してくれると思われていましたが、もはや吸収しきれないところまで人間の活動の影響が大きくなってしまったわけですね。
気候変動問題がどんどん可視化され、SDGsの取り組みも活発になってきていますよね。これも、そうした環境問題に対して、人類が一丸となって対処すべきという、大きな流れが生まれている証拠です。
――確かに、地球環境問題は昨今の大きなトレンドですよね。
松本:ただ、ここで忘れてはいけないのは、「人新世」という言葉が人間に逆のメッセージを与えてしまいかねない危険性も孕んでいる、ということです。
つまり、人間の活動が地球をも動かすくらい大きくなってきた事実が、人間が支配権を確立していよいよ生物界の頂点に立った、という誤解を与えかねないんですね。
しかし、頂点になったからこそ謙虚であるべきだし、そもそも人間が頂点だなんてとんでもありません。実際は科学的に解明されていないことだらけで、この地球を完璧にコントロールできるようになったかというと、到底そんなことはないわけです。かつての世界大戦時代で露呈した人類の愚かさを克服できていなかったことも、このたびのウクライナの戦争で思い知らされましたよね。
ですので、私たちは世界の支配者には遠く及ばないということを自覚する必要があると思うんです。今こそ、これまで持っていた自己認識や世界観を転換し、風土仏教的な価値観や認識を取り入れるべきではないでしょうか。
鈴木大拙は最初に禅と念仏を広めるべきだと主張していましたが、結果的には禅が先行して広まっています。
念仏を広めるという、鈴木大拙がやり残した仕事を我々が実行するタイミングが来たといえるのかもしれません。
――ありがとうございました。
インタビューは後編に続きます。後編では、松本さんがいま実践されているご活動のことや、未来への展望をお伺いしました。
社会が正気を失わないために、仏教にできることとは?|松本紹圭さんインタビュー<後編>