お坊さんがwebムービーを作った話｜広島青年僧侶春秋会インタビュー＜後編＞

ターゲットが求めているものは何だ？ webムービーができるまでの試行錯誤。

（画像引用：https://camp-fire.jp/projects/view/639492?list=local）

――制作の上で、大切にされたことはありますか？

廣幡：内容をただ仏教の教えを語るだけのものではなく、現役世代の方に寄り添ったものにすることを大切にしました。その上で、宗派の公式機関では制作しづらい内容であること、若手僧侶ならではのものであること、そして価値観の押し売りをしないことを大切に、内容の議論も深めていきました。その際、対象世代が何を求めているのかも意識しました。要は、マーケティングですよね。実際に、マーケティングに精通されている方のアドバイスも仰ぎました。

――マーケティングをされて、対象の世代はどういったことを悩まれていて、どういったことを仏教に求めていると思われますか？

廣幡：そもそも、現役世代はみ教えを聞く余裕すらないことに気づきました。やっぱり、時間とお金が大きな関心事であり、悩みの種です。特に、30歳代に差し掛かると子どもが産まれたり、住宅を購入したりする方も多いでしょう。すると、子育てや教育で時間を取られ、住宅ローンの返済に追われることになります。つまり、ご自身で選ばれた道とはいえ、時間とお金の両面で苦しい状況が生まれるんですよね。そうした苦しみから解放され、ゆっくりしたい……と、お思いの方も多いのではないでしょうか。

そんな状況下で、我々の価値観を押し付けても伝わらないですよね。あくまでも我々の価値観を絶対化することなく、対象の世代が大切にしている価値観に加えるような形で仏教に出遇っていただきたい、というメッセージをムービーに盛り込むことにしました。

――制作の中で、ご苦労されたことはありますか？

廣幡：価値観を押し付けないことに気をつけていたものの、企画内容の検討ではついつい僧侶目線で物事を考えてしまうところに苦労しました。ターゲットの方々の価値観を尊重するにはどうすればよいかを、真宗大谷派企画調整局の橋本真さんや、映像監督の宮川博至さんや企画の大久保浩秀さんのアドバイスも頂戴しながら、議論を重ねましたね。
セリフの言葉選び一つでも、嫌悪感を抱かれないかという心配がちらつき、大いに悩みました。悩む過程で、いかにお寺の運営が門信徒の方々で成り立っているかにも気づかせていただきました。

そもそも、ご縁が非常に薄い方を対象としているので、まずは興味を持ってもらうことの難しさを痛感しています。また、企画を考える中で我々がいかに未熟であるかも気づかせていただきました。

一方、難しさゆえにやりがいや達成感も感じました。会員それぞれが時間を割いて制作したものが徐々に形となっていくプロセスはもちろん、無事に完成して迎えた打ち上げは最高でしたね。また、春秋会の先輩方や協賛企業からの応援の声も心の支えとなりました。

講演会の様子（画像提供：広島青年僧侶春秋会）

――お寺や仏教が持つ魅力はどういったところにあると思われますか？

廣幡：変わらないところに魅力があると思います。社会は状況にあわせて日々変化を繰り返していますが、仏教やお寺は変化しませんよね。それでも、殆どのお寺は数百年残り続けてきました。

もしかすると、仏教やお寺のある光景はあまりにも当たり前すぎて、現代では魅力として映らないのかも知れません。葬式や法事だけが仏教の出番だと思われていますが、日常生活の中にも仏さまのみ教えがあることに気づいていただければと思います。

――ご活動における、今後のご展望をお願いします。

廣幡：webムービーやホームページを通して、仏法がどんどん広まってほしいと思います。また、手軽に見ていただけるよう、視聴料金等は頂いていないほか、各寺院のホームページ等でご紹介いただいても構いません。是非、SNS等を通じて拡散されれば大変うれしいです。そこから、100人に1人でもみ教えを聞いてみようかなと思っていただけるようになるのが、夢であり目標です。

――ありがとうございました。

編集後記

今回は、広島青年僧侶春秋会の上園陽さん、そして廣幡俊道さんに、春秋会のことや仏教文化講演会のことについてお伺いしました。
70年近い歴史の中で、一人でも多くの方が仏縁に出遇えるよう、時代に応じてさまざまな取り組みをなされてきたことが窺えます。そして、それは今回の企画でも確かに受け継がれているのではないでしょうか。上園さん、廣幡さん、ありがとうございました。