香りのプロがみた 宗教の力、グリーフケアの未来 日本香堂 小仲正克氏インタビュー<後編>
ーー宗教やお墓は、私たちに何をもたらしてくれるのでしょうか?
小仲 正克さん(以下:小仲):7年前、弊社と、法政大学の尾木直樹(尾木ママ)さんとで中高生を対象にした調査で、年1回以上お墓参りをする、又はお仏壇参りをする中高生と、全くしない中高生の違いを調べたところ、困っているときに手を差し伸べるやさしさ(コンパッション)や、他の人を思いやる心が、前者の方が高く、統計学的に有意のある差が認められました。手を合わせる子どもたちは、やさしさや思いやりのある心が育まれているという事だと思います。神仏を感じたり「お天道さん」が見ている、という日本ならではの感覚も影響しているのだと思います。
かつては、手を合わせたり、僧侶の話を聞くことが、道徳教育の代わりの面もあったと思います。お互いが支え合うやさしい社会をつくるには、手を合わせる習慣が大切だと思います。その習慣は日本のやさしい社会づくりに貢献するでしょうし、いじめも減っていくかもしれません。これは、亡くなった人だけでなく、いまを生きている人たちにとっても体感できる宗教的価値だと思います。
ーー宗教への期待やお寺の役割はどのあたりにあるとお考えですか?
小仲:仏教は心の自然治癒力を高めるものだと思います。昔、上智大学で2年間、グリーフケアについて学ばせていただきました。大切な方を亡くしてからの6か月のケアが特に重要だと言われます。実はお線香の消費量もその6か月間に集中します。その間にしかるべきケアがなければ、悲嘆からの快復が遅くなる気がします。
グリーフケアという言葉はキリスト教発祥のものですが、仏教でこれまでそれほどグリーフケアということが強調されてこなかったのは、むしろ仏教や仏事には元々、グリーフケアのプロセスが含まれているから、という見方もできるのではないでしょうか。初七日、四十九日、初盆、一周忌など節目節目の法要は、グリーフケアとしての大切な役割を果たしていると思います。
グリーフケアは死を意識しながらいまを生きる、という側面もあります。終末期医療の場面でも宗教者の役割は重要だと思います。寄り添うことは大変だと思いますが、救われていく方もいらっしゃるはずです。また、終末期ではなくても不安の中で生きている人たちの心に寄り添うことも大事なのではないかと思います。ストレス社会になり、心療内科も増えていて、世の中のニーズが高まっています。そこが入り口となって、お寺との関わりが増える可能性を感じます。
私自身、築地本願寺さんにご縁がありますが、お参りすると心が洗われて、素直になれる気がします。我々は色々なしがらみに悩むことが多いのですが、僧侶の方々は既成概念にとらわれず、しっかり寄り添っていただけるので有り難いです。お盆等に僧侶の方の話を聞き、はっと我にかえる時間も大事だと思います。
ーー新型コロナウイルス感染症による変化は感じますか?
小仲:帰省を自粛する方が増えたことで、かえって実家の家族への気持ちが高まり、贈り物の需要が伸びています。年末の喪中葉書やご進物を送られる方が増えており、いまや年末はお盆並みの需要があります。「喪中見舞い」は着実に定着化していると実感しています。
また、葬儀については、新型コロナウイルス感染症によって参列者の縮小や家族葬の普及に拍車がかかっています。一方でオンライン化などの流れがあり、参列が難しかった遠隔地の方も参加できるポジティブな面もあります。帰省できなくても、心の距離を縮めておきたい、というニーズは感じるので、そこに応えていきたいですね。