どうしてCO2を削減しなければいけないの?|地球環境戦略研究機関(IGES)インタビュー③<前編>

■「CO2(二酸化炭素)削減」と「水蒸気フィードバック」

 
――温室効果ガスはCO2の他にもメタンや一酸化炭素などさまざまなものがあって、その中で最大のものは水蒸気だ、という説があります。もしそうだとしたら、なぜ私たちはCO2を削減しなければならないのでしょうか?
 
田中勇伍さん(以下:田中):CO2やメタン、一酸化二窒素など、さまざまな温室効果ガスが、それぞれどれほど影響しているのかを世界中の科学者が研究しています。例えばKiehl and Trenberth (1997)(*1)によると、直接的な温室効果の約半分程度が水蒸気によるもので、CO2は2割程度です。
 

(*1) Kiehl, J.T. and Trenberth, K.E. (1997):Earth’s Annual Global Mean Energy Budget. Bulletin of the American Meteorological Society, 78, 197-208 (1997年にアメリカ気象学会の学会誌で発表された研究論文)

 
地球には広大な海があり、そこから蒸発が起きる以上、水蒸気を直接コントロールすることは、ほぼ不可能です。海面などから蒸発し大気に保持される水蒸気量は気温に左右されますから、水蒸気以外の気温上昇の要因を抑え、この蒸発量を間接的にコントロールするしかありません。
 
――水蒸気は直接的にコントロールできないのですね。
それでは、間接的にコントロールするための他の方法とは何なのでしょうか?

 
田中:大気中の水蒸気量を決定する主な要因である気温上昇にCO2が影響します。
つまり「CO2の影響によって気温が上昇し、それが大気に含まれる水蒸気量を増やし、また気温を上昇させる」という因果関係があるのです。
さまざまな温室効果ガスがあり、それぞれ抑制の対象になっていますが、温室効果ガス排出量が最も多いのは人間の活動に起因するCO2です。
気温上昇を水蒸気が増幅させるこうした効果は「水蒸気フィードバック」と呼ばれています。
 

(図: 国立環境研究所地球環境研究センター)

 
大気中のCO2濃度が倍増したときの気温上昇に対するCO2と水蒸気の貢献に関するイメージ図。CO2が気温を1.2℃上昇させた場合、大気中の水蒸気が増加し、その働きで気温はさらに上昇する。(*2)
 

(*2)国立環境研究所地球環境研究センターホームページ
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/11/11-2/qa_11-2-j.html

 
――CO2による気温上昇が原因で通常より水蒸気の量が増え、それがさらなる気温上昇を引き起こしている、ということでしょうか。
 
栗山昭久さん(以下:栗山):そうですね。CO2は大気中に残る時間がとても長く、出せば出すほど積み重なって大きな影響をもたらす温室効果ガスです。水蒸気だけであれば、降雨などの気象変化の影響も受けます。メタンは12年程度で大気中にて分解されますが、CO2は化学反応を起こさない安定した気体であることから、海洋や森林によって吸収されない限りは大気中に残存し、気温上昇を起こし続けます。じわじわと効き続けるのです。
多くの研究者が検討に検討を重ね、CO2が今の気候変動問題の引き金になっていることを明らかにしています。
 
――CO2は水蒸気などの他の温室効果ガスよりも大気中に長く残って気温を上昇させ続け、その結果水蒸気の量も増えてしまう、ということですか。
結局、このCO2を減らすためには、私たちが石炭や石油などの、いわゆる化石燃料の使用をやめるしかないのでしょうか。

 
栗山:化石燃料を使いつつ気温上昇を抑制する方法の1つとして、ジオエンジニアリングという、大気中に微小な粒子を大量に撒いて太陽からの放射を防ぐ技術はあります。ただし、どこにどの程度散布すれば良いかといったコントロールが難しいですし、粒子を散布した後の副次的な影響もわからないのが現状です。気候危機に対処するには、CO2排出量を抑えることが必須であり、CO2の発生源である化石燃料の使用を止めることが、最も確実かつ安全な具体策かと思われます。
 
――なるほど。結局のところはCO2の排出を防ぐために、何らかの方法を考えていくしかない、ということなのですね。
 

(写真:Pixabay)

 

CO2を技術だけで減らせないのか?

   

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掲載日: 2021.10.29

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