どうしてCO2を削減しなければいけないの?|地球環境戦略研究機関(IGES)インタビュー③<前編>

■CO2を技術だけで減らせないのか?

 
――CO2を制御する技術として、CO2を回収して地中や海中に埋めてしまうCCS(二酸化炭素回収・貯留)や、逆にCO2を活用するCCU(二酸化炭素活用)といったものも聞きますが、実効性はあるのでしょうか?また、私たちが生活を変えずに、こうした技術だけで気候変動や温暖化が解決する可能性はあるのでしょうか?
 
田中:私は技術だけでこの気候変動問題を解決することは「できない」と思います。
CCSはCO2を永久に固定できるわけではなく、CO2を大気に排出するのを遅らせる技術であると考えたほうが良いと思っています。当面の問題に対処する上で効果はあるにせよ、本質的な問題解決にはならないように思います。
 
CCUはCO2のリサイクルですが、今のところ莫大なエネルギーが必要なので、なかなか難しいだろうと思います。CO2を出さない再生可能エネルギーの利用が盛んになって、エネルギーが余り始めるような状況であれば可能性はあるのではないでしょうか。
 
――CO2を減らすために、それ以上のCO2を出してしまっては元も子もない、ということですね。
 
栗山:ただCCUとCO2削減は両立する面もあります。
化石燃料を使わなくなったとき、どうやって医療品などの化学用品で必要になるプラスチックを作れば良いかというと、活躍するのがCCUです。再生可能エネルギーを使って、大気中のCO2からプラスチックを作るといった検討はできるでしょう。CCUはどういったエネルギーを使って行うのか、どのような目的で活用するかで話が変わるので、一概には議論が難しいですね。
 
――なるほど。一言でCCUといってもかなり整理が必要な問題なのですね。
 

(写真:写真AC)

 

■これからの再生可能エネルギー

 
――化石燃料の使用をやめ、太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーを使っていくとして、日本の風土に向いているのはどのようなものでしょうか?
 
栗山:個人的には、今は洋上風力、特に浮体式洋上風力発電といわれる方式に興味を持っています。着床式陸上風力よりも大量生産が容易で、工場で作ったものを船で沖合に牽引すれば設置できる手軽さが強みです。一般的な洋上風力発電装置は重くて大きな部品が多く、運んで組み立てるためには、大きな船や、そうした船が入れる大きな港が必要になります。浮体式は文字通り浮くので、小さな船や港で対応できます。日本の港でも運用できる可能性も見えてきます。
 
――大型の港が少ない日本にも適した形態、というわけですね。
日本は火山が多く、地熱発電が向いている、という説もよく聞くのですが、それはどうなのでしょうか?

 
田中:日本の地熱発電に期待がかけられてきましたが、なかなか開発が進まないのが現状です。地下の状況は把握しづらく、掘削すると環境にどのような影響が出るか不確かな部分が大きいと思います。自然環境と調和した状態で地熱が使われるのは望ましいものの、安定した開発が難しい以上、直近の排出量を減らすための主力電源として期待するのは難しいでしょう。
 
――日本は台風などが多く、そうしたときには太陽光発電パネルの事故などのニュースも流れます。そうした災害への対応を勘案しても、風力や太陽光が選択されるのでしょうか?
 
栗山:まず洋上風力に関しては、福島県沖の実証実験場は東日本大震災の津波にも耐えたと報告されています。あの規模の津波であっても沖では津波の高さは数メートル程度で、沖に行けば行くほど津波の高さは低くなります。
 
田中:太陽光発電は、FIT制度(*3)を目当てに施工経験のない業者が多く参入し、責任の所在や実効性に欠ける発電所が乱立しました。太陽光パネルは事故が多く自然に悪いといった評価は、こうした発電所の事例が目立つ傾向にあるので、冷静に評価したいところです。
 
日本の太陽光発電が高額だといわれているのは、本来は台風などの自然災害に耐えられる設計基準になっているからです。そういったコストの部分ですでに対策されていることを考えると、「高価でリスクに弱い再生可能エネルギー」という評価は適切ではないかもしれません。
 

(*3) FIT制度:再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff)。一般家庭や事業者が再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が買い取ることを国が約束する制度。

 
――ありがとうございます。CO2削減のために再生可能エネルギーを利用していくうえでも、特性をきちんと理解して、どうやって安全に運用していくかといった議論が重要になるのかもしれませんね。
 

編集後記

 
CO2(二酸化炭素)を削減しなければいけない背景には、数百年以上気温を上昇させ続けるというCO2の性質と、それによって大気に含有する水蒸気が増え、さらなる気温上昇を引き起こす「水蒸気フィードバック」の存在がありました。
直接的な技術だけでCO2を削減することが難しい以上、私たちは再生可能エネルギーをどうやって現実的に導入するべきかを議論する段階に来ているのかもしれません。こうした変化に、私たちはどんな態度をとるべきなのでしょうか。
 
インタビュー後編では、そもそもエネルギーと私たちの幸せはどう関わるのか。寺院にはいったい何ができるのかについて、引き続き田中さんと栗山さんにお話を伺います。
 

プロフィール

 

田中 勇伍
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)関西研究センター研究員
2020年より現職。主に兵庫県をフィールドに、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギー普及スキームの開発・実装支援、基礎自治体の計画づくり支援、人材育成などに従事。専門はエネルギーシステムと公共政策。博士(総合学術)。

 

栗山 昭久
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動とエネルギー領域 研究員 
2011年より、IGESにて東南アジア諸国のエネルギー部門向けCO2削減プロジェクトや国際的なメカニズムの定量的評価・制度構築支援に従事。現在は、中長期シナリオに基づく政策評価、ネット・ゼロ社会に向けたエネルギー収支分析、再生可能エネルギー拡大に向けた電力システムや雇用分析など、日本の脱炭素化に多面的に取り組んでいる。工学博士。
   

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掲載日: 2021.10.29

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