責任ってなんだ? 被爆者三世の久保光雲さんが抱いた感情とは│久保光雲さんインタビュー<中編>

戦後70年、世代をこえた出会い

 

2012年バークレーにて行われた個展の様子。左から二人目(一番奥)がメグさん

 
ーーそれはどのような出会いですか?
 
久保:それは米国仏教学院に留学していた時のことで、当時は博士論文のため『浄土真宗とキリスト教における迴心体験の比較』というテーマで研究していました。
カリフォルニア州バークレーの宗教大学院連合(Graduate Theological Union)にも通い、キリスト教ユニテリアン派の大学院で、『信仰を社会にどう生かすか?』という興味深いテーマの講義を受けました。アメリカの大学の生徒には色んな人がいます。高齢の方も多数おられ、誰が生徒で先生なのかわかりません。その授業で「メグ」という魅力的な女性と友達になりました。70代の彼女は、ユニテリアン派の牧師で、夢分析をするカウンセラーでもありました。
 
ある時、ガンジーの映画をみんなで視聴していました。無差別に人が殺されていくシーンを見て、私はすごく泣いたんですね。広島の惨事を思い出していました。
すると、授業が終わった後、メグが近寄ってハグをしてきました。「私は広島の人にすごく会いたかった」と。
 
メグ曰く、彼女の祖父は科学者で、原爆の開発チーム(Manhattan Projects)に参加していて、戦争を終わらせるために必要だと信じて研究を続けていたようです。しかし結果的に大変な惨事が起こってしまい……。彼は二度と戦争の事を語らなかったそうです。でも、彼女にとっておじいさんはすごく愛しい人だったと。
 
そして「私はいつか広島の人に謝りたかった」と、泣きながら言ってくださったんですね。それを聞いた時、私の中にあったわだかまりが溶けるような感覚がありました。
 
アメリカに、原爆について後悔しながら亡くなられた人がいて、その孫はずっとその思いを引き継いでいる。そんなメグと被爆者三世の私は友人となり、わかり合っている。
阿弥陀さまは私にこんな出会いまで用意してくださったのだ、ということに感動しました。ますます頑張って浄土真宗を伝えていこうと思いましたね。
 

<編集後記>

 
広島の人として、日本人として必ず受けなければならない平和教育。戦後76年を迎え、徐々に戦争や原爆は歴史の中での出来事となりつつあります。
時間が経てば経つほど、戦争を実感できなくなっていく。しかしながら、「実感できない」ことを出発点とし、自身の心を改めて見つめ直し、愚かさに気づいていくことはできるのかもしれません。
 

 

久保光雲さんプロフィール

久保光雲さんの写真

 

広島出身。画家、僧侶(浄土真宗本願寺派)。京都市立芸術大学(陶芸科)を卒業。陶器製作に加え画家としての活動も始め、関西・仙台・アメリカにて絵画展を開催。龍谷大学大学院博士後期課程(真宗学)単位取得満期退学。2012年からカリフォルニア州の米国仏教大学院に留学。サンフランシスコやバークレーの寺院で法話を行う。2015年7月よりブラジルにて、開教使(海外布教僧侶)として赴任中。
   

Author

 

他力本願ネット

人生100年時代の仏教ウェブメディア

「他力本願ネット」は浄土真宗本願寺派(西本願寺)が運営するウェブメティアです。 私たちの生活の悩みや関心と仏教の知恵の接点となり、豊かな生き方のヒントが見つかる場所を目指しています。

≫もっと詳しく

≫トップページへ

≫公式Facebook

掲載日: 2021.07.19

アーカイブ