死に向かう人に寄り添える僧侶へ|花岡尚樹さんインタビュー<後編>

ビハーラ活動をとおして
 

 
-僧侶として、布教使になろうと思われたのですね
 
行信教校を卒業して布教使になってから、本願寺の布教研究専従職員になりました。そしてその頃、ビハーラ活動者養成研修会を受ける機会にめぐまれました。その際ビハーラクリニックについて知りました。最初知ったとき、「僧侶として関われる、こんな機関があるんだ」と驚いたのを憶えています。
 
-ビハーラクリニックといいますと?
 
ビハーラクリニックは、京都府城陽市にあるホスピス・緩和ケアを提供する医療施設です。親鸞聖人の七五〇回大遠忌法要の記念事業の一環として、浄土真宗本願寺派が設立母体となって平成20年の4月に建てられました。運営方針として、仏教的理念に根ざし、がんの患者さんと最後の時を過ごす、「ぬくもりとおかげさま」の医療の提供を心がけています。
 
ビハーラクリニックのことを知った頃、ちょうど大阪の特別養護老人ホームの相談員を経験し、傾聴(けいちょう)について学んでいました。傾聴は「仏教を説き聞かせるのではなく、人の話をただ聴く」というスタンスの学びです。
 
そのことを学んでいたこともあって、縁あって平成21年からビハーラクリニックで働くことになりました。
 
-実際の現場はいかがでしたか?
 
仕事は厳しいものでした。私自身、医療の現場で僧侶として活動するのがはじめてで、お医者さんや看護師さんの使う専門用語がまったくわからず、正直戸惑いました。そして、医療者と僧侶という立場の違いから生じる葛藤も経験しましたし、最初は、医療の現場で僧侶として何ができるか悩みました。
 
それでも辞めなかったのは、患者さんが私を頼りにしてくれたからです。死に直面したなかで、いま現に苦しんでいる方がいるわけです。やめたら自分は楽になるかも知れないけど「やめたらこの人達を捨てていくことになる」「必要としてくれている人がいる」という気持ちが強かったです。
 
 
ビハーラクリニック
 
-ビハーラクリニックは、病院とは違うのでしょうか?
 
一般の病院は治療する場です。治療が目的です。
ビハーラクリニックは、その人らしく生き抜くところに重点が置かれていて、最後までその人らしく安心して療養の生活が送れることを大切にします。生活の質を上げていくことを目指しています。
 
ただ、ホスピス、緩和ケアは、死を待つだけの場所、暗いところというイメージがあって、社会に浸透しにくい側面があります。死を「敗北」「避けるもの」という発想から、「ホスピス=治療のあきらめ」と思われがちです。
 
けれどもわたしたちは、患者さんが亡くなる最後まであきらめず、積極的に関わっていくことを目標としています。
 
-「ひとりの死」の受け止め方が違うということでしょうか?
 
患者さんの死に出会うと、悲しみや辛さをかかえるだけではありません。
最初のうちはショックで強いストレスを感じました。患者さんと関係をつくっても、一ヶ月や二ヶ月で亡くなっていく姿に無力さを感じました。
 
ところが、自分がつらいと思うということは、そのひととの出会いが喜べていたからともいえます。
 
死は一緒に生きた証です。先立っていった方は、自分もいずれそうなることを自分に教えてくれます。自分の先を歩いてくれます。
 

 

ビハーラ僧としての、活動の原動力は?

   

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掲載日: 2013.08.16

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