「同じ立場だからこそ寄り添える」正信偈に救われた僧侶のうた│やなせななさんインタビュー＜後編＞

同じ立場だから寄り添える

――やなせななさんが僧侶として大切にされていることはありますか？

やなせなな：浄土真宗のお坊さんって、ほとんど門徒さんと変わらないと思っているんです。これは浄土真宗の特徴の一つだと思います。
例えば、私がお坊さんだと知った方からはよくお祓いやご祈祷を求められます。そのたびに断り続けてきましたが、他宗のお坊さんにはお祓いをされる方もいますし、そのお祓いが悩みの解決につながることもあるんですよ。正直、それを羨ましく思ったこともありました。
でも、そのような力が備わっていない私が大切にしたいのは、皆さんと一緒に仏さまのお話を聞いたり、皆さんと同じ立場で会話したりして、一緒に苦悩に向き合っていくこと。その繰り返しのなかで、私にもお役に立てるようなご縁があればいいなと思っています。

――最後に、やなせさんの今後のご展望を教えてください。

やなせなな：新型コロナウイルス感染症の影響で生活は一変しました。被災地支援から地道に続けてきた超宗派のコンサートもほぼキャンセルになり、仕事のペースを崩されました。また最近、私は両親を支える立場にもなり、これまで前進あるのみと頑張ってきましたが、止まらざるを得なくなりました。
やむを得なかったという側面もあります。でも感染症の拡大がきっかけとなり、立ち止まったことは、結果的にはよかったんじゃないかと思えるようになりましたね。とにかく今は、できることを精一杯していくしかないなと思っています。
なので、今後の展望は不透明です。今までやっていた活動がどこまで継続できるかもわかりません。
でも、それも一つのご縁かなと。歌える時期が来ればまた歌いますが、親の面倒を見るためにも今までよりは家にいないといけません。
だからそのときそのとき、移りゆく中で自分のやりたいこと、やれることを一つ一つ丁寧にやっていくしかないなと思います。

――ありがとうございました。

さいごに

今回は、シンガーソングライターでお寺のご住職でもある、やなせななさんにお話を伺いました。「自分にできることは皆さんと同じ立場にいること」とおっしゃっていたやなせさん。み教えに支えられながら、ご門徒と同じ立場でともに生きるその姿勢と「隙間」のある歌声から生まれるやなせさんの音楽は、人びとの心に今日も響いていることでしょう。
やなせななさん、ありがとうございました。

プロフィール

やなせななさん
シンガーソングライター
1975年奈良県の寺院に生まれる。
2010年～教恩寺住職（浄土真宗本願寺派）
2004年5月シングル『帰ろう。』でデビュー。これまでに5枚のシングルと、7枚のアルバムをリリースし、CMソングやゲームの主題歌、劇中歌などに起用される。

その一方で、YAMAHA会員情報誌『音遊人』エッセイ連載（2006年～2019年）、書籍の出版、ラジオ番組『やなせななはじまりの日』パーソナリティ（2012年～、DateFM、株式会社ごんきや提供）、仏教講座講師、映画の製作（企画・脚本・音楽）など多彩な活動を展開。

30歳で子宮体ガンを克服した経験と、寺院で暮らす僧侶という視点を生かし、生死の苦悩の先に広がる救いや、いのちのぬくもりを伝える楽曲を数多く発表。
「その声を耳にすると、自然と涙があふれ出す」と評される、包容力あふれる歌声と美しいメロディ、慈しみに満ちた唯一無二の世界観が持ち味で、年代・性別を超えた幅広い層から確かな支持を獲得している。
また、涙あり笑いありの巧みなトークと、胸を打つライブパフォーマンスが評判となり、全国47都道府県およそ600ヵ所での公演を成功させた実績を持つ。

地道な活動が注目され、2011年3月日本テレビ『NNNドキュメント’11～歌う尼さん　がん闘病から奏でるいのち』、2012年9月NHKEテレ『グラン・ジュテ～私が跳んだ日』、2017年NHKEテレ『あしたも晴れ！人生レシピ』等で全国に放送され、大きな反響を呼んだ。

2008年に母校・龍谷大学校友会からは、活躍を期待される卒業生に贈られる「龍谷奨励賞」を授与されている。
2019年10月1日付で、生まれ故郷であり、現在も暮らしている高取町（奈良県）の初代観光大使を委嘱される。
（公式HPより引用）

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