心ゆたかに、穏やかな第二の人生を。僧侶が設立したデイサービスセンター|野の風デイサービスセンター 森下広大さんインタビュー<前編>
農作業を通して得られること。
(画像提供:森下さん)
――すこし市街地からは離れているのですね。
森下:そうですね。やっぱり、市の中心部にある方が便利であることは確かなんですよね。送迎や買い出し、病院が近いので。でも、利用者さんの環境を考えると少し中心部からは外れたほうが良いのかなと。
――それはどうしてでしょうか?
森下:自然豊かな環境のほうが、四季を味わいやすく、のびのびと農作業を行えるからです。外に出て日光を浴びたり、風に当たったりすることで、利用者さんの表情も自然と穏やかになられていますね。
認知症が進行すると、季節が分からなくなることがありますが、当施設は窓も大きく、岐阜の山々を眺めることができるので季節感を味わいやすいんですよね。そうしたことも認知症進行の予防になっていると思います。
冬は大雪が降り、お寺や施設の除雪作業に追われるという。(画像提供:森下さん)
――利用者さんにとって、農作業を行うことにはどういった良さがあるのでしょうか?
森下:利用者さんの中では認知症の症状があらわれている方もいらっしゃいますが、昔のことは覚えておられることが多いです。なので、いっしょに田植え、収穫、仕分けといった農作業が出来るんですよね。
そして、農作業を通していろんな話をしてくださるので、脳の活性化にも繋がります。そういう意味で農業ができる環境が理想的なのかなと思っています。
また、秋は育てたサツマイモや大根を使ってお昼ご飯を作っています。育てた野菜をいただくことで、利用者さんも自分が育てた物を食べられるという自信や喜びにも繋がるし、畑仕事への意欲も増していると感じますね。
一般的なデイサービスでは、体を動かしにくい方は極力安全策として外には出さず、室内で塗り絵や折り紙といったことをする場合が多いですが、当施設ではご家族の許可をいただいて、作物の仕分けや、たまねぎやたけのこの皮むきといった農作業も行っていただいています。
――運営面で、気をつけておられることはありますか?
森下:出来るだけ職員一人で大人数を見ないようにしたり、同程度の身体能力を持っている人を同じグループにして行動していただいたりするようにしています。
また、ご家族の方は大変心配されています。けがをしてしまったときに「何でこんなことをやらせたんや」とお叱りを受けることがないように、契約時にリスク、方針等の説明をしっかりさせてもらうことが重要ですね。
日頃からご家族の方にできるだけご心配をおかけしないよう、利用者さんには日々どういう作業をしていただいているのか、どういう状態なのかは十二分にお伝えするようにしています。
――それでも「身体を動かす」ということにこだわっておられるのですね。
森下:そうですね。やっぱり、家では何もさせてくれないとおっしゃる利用者さんが多いんですよね。なので、できることは利用者さんご自身でやっていただくようにしています。少々のリスクがあっても出来ることはやっていただき、今の状態を維持していただくほうが豊かな人生を送れるのではないかと思いますね。
――ありがとうございました。
インタビューは後編に続きます。後編では、引き続き森下さんに、介護や福祉の分野で僧侶ができることは何かをお尋ねしました。
介護の分野で、お寺や僧侶ができることとは?|野の風デイサービスセンター 森下広大さんインタビュー<後編>