改めて考える、月忌参りのあり方とは?|京都府法行寺 熊本博史さんインタビュー<後編>
(画像提供:熊本さん)
――お話をする際に、心がけておられることはありますか?
熊本:月忌参りの場では、お話をしたい、話を聞いてほしいという方が非常に多いです。なので、そのご要望に出来る限りお付き合いするようにしていますね。これまで歩んでこられたご生涯の中で、嬉しかった経験やご苦労された経験は、核家族化によって誰も聴いてくれなくなりました。そんな時代だからこそ、お参りではできるだけ皆さまの現役時代のお話をお聞きするように心がけています。
80歳近くになって、これまでに仕事も子育ても頑張ってこられ、さまざまな困難も乗り越えられた方々が、誰からも相手にされていないのは寂しいですよね。だからこそ、月忌参りというご縁を通してお話を聴かせていただいているんです。
もちろん、月忌参りを通して仏教のみ教えをお伝えするのが理想的ですが、まずはお坊さんが来てくれるのが楽しみ、話すのを聞くのを楽しみにしていただくところからご仏縁は始まっていくのかもしれません。
――お参りの中で、実践してみたいことがあれば教えて下さい。
熊本:実践してみたいのは、仏事ではどんなことが求められているのかをお聞きすることですね。例えば、家電量販店であれば、入店した際に店員さんが「どんなものをお探しですか?」と我々が求めていることを尋ねて、そこから探している家電のコーナーまで案内しますよね。
こうした、相手の求めていることを探していくことが、現代のお寺には求められていると感じています。
これまでは、僧侶が訪問しておつとめをして、法話をしてという、一方通行的に場が進んでいたので、門信徒の方のニーズを掴む機会があまりなかったですよね。世間の方々は仏事に対して何を求めているのか、あるいは何も求めていないのか……、そのあたりを探っていくことが今後の課題ではないでしょうか。
――でも、聞くって難しいですよね。話を引き出す工夫は何かされていますか?
熊本:確かに、疑問を引き出すって本当に難しいですよね。特に、年配の方は質問して笑われるかもしれないという不安からか、なかなか僧侶に相談できないようです。また、今はインターネットに仏事の疑問に関する記事がたくさんあるので、それを見たほうが手軽ですし、恥をかかずに済みますよね。
なので、私の場合、例えば疑問があまり出てこないような場合は、「こんなことを尋ねられたんですけど皆さんどう思います?」といった具合で、他のお参り先で受けた疑問や質問を紹介しています。
インターネットの記事は、最後に「お付き合いのお寺にご確認ください」という文言で締めくくられている場合も多いと思います。つまり、最終的には僧侶に聞く必要が有るんですよね。だからこそ、なるべく聞きやすい環境を用意しておく必要があると思っています。
――お参りに対して、真摯に向き合われているのですね。
熊本:まだまだ道半ばですが、出来る限り丁寧におつとめするように心がけています。よくよく考えたら、月忌参りを望んでおられる方は、最大で年間12日も仏教やお寺、そして僧侶のために貴重な時間を割いてくださっているんですよね。
ですので、頻繁にお参りするから簡単なお勤めでも良いとは全く思っておらず、むしろ12回もご仏縁をいただけることに対して、真摯にお答えしていくことが大切ではないかと思います。
昨今は、月忌参りの風習がある地域でも、ご縁が少なくなってきていると聞きました。実際、法行寺でも月忌参りのご縁は減少しています。それは社会の変化による、致し方ない部分もあると思いますが、結局のところ、月忌参りに価値を見出してもらえない、僧侶にお参りに来てもらっても意味を感じていただけていないことの証明だと思います。
厳しいことを申し上げますが、世間の方々から必要とされなければ、もはやお寺は存続できません。私に出来ることは限られていますが、出来る限り誠意を持っておつとめし、お話を聞かせていただいています。丁寧なお付き合いの先に寺院の未来が開かれていくのかも知れません。