倒産寸前から業界一の終活サイトを築いたマーケティングの視点|清水祐孝さん((株)鎌倉新書 代表取締役会長CEO)インタビュー<前編>
清水祐孝さん(画像提供:(株)鎌倉新書)
かつては仏教の専門書が中心の出版社だった鎌倉新書。現会長の清水さんが入社した当初、倒産の危機に瀕していたといいます。しかしある気付きによって、事業の軸足を終活ポータルサイトの運営に移して急成長。
2022年4月からはプライム市場に移行し、提携事業者・施設数23,000件、紹介件数年間134,000件を誇る終活業界のトップ企業へと変貌を遂げました。近年は介護や不動産等の関連領域にも事業を広げ、高齢者の「終活インフラ」となりつつあります。鎌倉新書の転機、そしてこれからの終活業界の展望等について、清水さんにうかがいました。
会社の成り立ち(画像提供:(株)鎌倉新書)
ーーはじめに、鎌倉新書を継承された頃の状況を教えていただけますか。
清水祐孝さん(以下 清水):もともと父親が鎌倉新書を経営しており、私は大学を出てから証券会社でサラリーマンをしておりました。その頃の鎌倉新書は仏教の教えや作法に関する専門書をつくっており、書店ではなく仏具店が主な販売ルートでした。
たくさん売れる本ではなかったため、経営が傾き潰れかかっていました。若い社員がひとり、またひとりと辞めていき、困った父から手伝ってほしいと泣きつかれたのです。1990年に私が入社した当時、財務状況は想像以上に深刻でした。売上の3倍近い負債を抱え、月末の運転資金もまわらないような状況に陥っていたのです。まさに倒産寸前でした。仏教の専門書の売り上げは厳しい状況でしたが、周辺の葬儀やお墓の業界を見ると、とても豊かなマーケットがありました。ニッチながら、約2兆円の市場規模があったのです。そのため、事業内容を葬儀社や石材店のための経営情報や、販促のための小冊子等の販売にシフトしていきました。
一方で当時、業界内での競争が徐々に激しくなっていく中で危機感を覚え、販促や広告戦略の重要性に気づく事業者様が増えつつありました。そこで、他の業界を参考にしながら最新のマーケティングの視点を取り入れ、供養業界向けのビジネス情報誌「月刊『仏事』」を創刊しました。掲載する記事の半分程度は私が日本中で取材をして書き上げました。それまでの供養業界誌は縦割りで、たとえば葬儀、お墓、仏壇とそれぞれの業界と専門誌に分かれていました。
しかしそもそも、人がお亡くなりになると、葬儀を行い、その延長線上でお墓や仏壇を買うケースが多いものです。それぞれは単体ではなく、一連の需要なのです。そのため、「月刊『仏事』」は業界を横断した情報を取り扱いました。葬儀社と仏壇店の垣根を越えた提携の仲介を行ったりもしました。そして事業者側が売りたいものではなく、お客様のニーズに着目した情報提供を心がけました。
ーー出版のみならずネットでの事業を展開されるようになった経緯を教えていただけますか。
清水:当時、取材対象の事業者様と話している中で、読者の方々は紙とインクでできた本が欲しくて買っているのではなく、そこに書かれた有益な情報を求めている、という当たり前の事実に気づきました。出版は一つの届け方に過ぎません。
弊社は単なる出版社ではなく、「情報加工会社」だと認識をあらため、1990年代後半、当時普及しつつあったインターネットも活用できるのではないかと着目しました。そこで、インターネットや広告宣伝に関する各業界のセミナー等で最新の情報を取り入れ、例えば書籍ならば2,000円で販売し、事業者様を対象としたセミナーでは、そこでしか聞けない絞り込んだ情報を提供し20,000円の受講料をいただくなど、情報の質と量に応じて、料金体系を変えていました。
そうしているうちに、葬儀社や仏壇店のコンサルティングを依頼されることも増えてきました。おかげさまで順調に売り上げが伸びて負債が減っていき、少しずつ社員も増えていきました。